約 1,012,673 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6538.html
前ページ次ページ残り滓の使い魔 ────その日、少年は選択を迫られていた。 長々と引き延ばしてきた決断であったが、2人の少女の決意と、 少年へと向けられている思いに真摯に向かい合わなければならない。 (振り返ってみれば、本当に色々あったよなあ) 半年前唐突に訪れた非日常。炎髪をなびかせる少女に告げられた“この世の本当のこと”、 『本物の坂井悠二』が既に死んでいるという現実。 そして、自分がその残り滓から作られた代替物『トーチ』であるということ。 (あの時から全部始まったんだよな) 一人ビルの屋上で、喧騒に包まれている街を見下ろし、彼は一つ小さなため息をついた。 本来は残された“存在の力”を徐々に失い、全てを忘れ去られてしまうはずだった。 しかし、幸か不幸か、毎夜零時にその日失った“存在の力”を回復させる永久機関『零時迷子』という宝具を身の内に宿している。 その為今まで存在することが出来ていた。 (と、そんなことより待ち合わせ場所に行かなきゃな) 少年を待ち焦がれているであろう少女を思い出し、ひとつ大きく白い息を吐いた。 「───よし」 少年が踵を返した先には、光る大きな鏡のようなものがあった。 (ん? 鏡なんかさっきまではなかったよな) 少年は鋭敏に“存在の力”を感じることが出来たが、このときばかりは何も感じることは出来なかった。 (自在法とかじゃあないみたいだよな) 近くに“紅世の徒”やフレイムヘイズの気配もない。 突如として現れたこの鏡のようなものに少年は警戒していた。 (マージョリーさんかカルメルさんに聞いてみたほうが良いかな) すぐに、自在式に詳しい知り合いのフレイムヘイズを呼ぼうとも考えた。 (差し迫った危険もなさそうだし、少し僕なりに調べてみるか) そう思い、鏡に手を触れた瞬間少年の姿はビルの屋上から消えてしまった。 ────少年が来ることを信じて待つ二人の少女を残して。 この日、澄み渡る青空の下トリステイン魔法学院では春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 生徒たちが各々自分の使い魔と戯れている中、今日何度目かの爆発音が響いた。 「ミス・ヴァリエール、もし次の召喚に失敗してしまったら今日はもう終わりにしましょう。明日もあるんですから大丈夫ですよ」 禿頭が眩しい教師コルベールが言う。 彼自身としては、全ての生徒たちが無事に使い魔を召喚して終わりにしたいと思っている。 しかし、ただ一人の生徒のためだけにあまり時間を使ってもいられない。 彼としては、これが最大限の譲歩であった。 「……はい。わかりました」 ただ一人使い魔を召喚できていない桃色の髪の少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは落ち込んでいた。 いままでは魔法が使えずゼロのルイズと馬鹿にされていたが、今日は誰にも負けない使い魔を召喚しようと意気込んでいた。 しかし実際、使い魔も召喚できない本物のゼロではないか。 やはり自分には魔法の才能がないんだ。と、既にルイズは半ば諦めかけていた。 「ルイズ、がんばりなさいよー」 遠くからキュルケの声援が聞こえてくる。 (いいえ、これは声援じゃないわ。 憎きツェルプストーめ、あんたの前ですっっっっごい使い魔召喚してほえ面かかせてやるわ。 そうよ、私は出来るのよ。ううん、違うわルイズ。できる、じゃなくてやるのよ。 さあ、今に見てなさい。驚いて腰を抜かしても知らないんだから!) 「宇宙の果てのどこかにいる私の下僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心から求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!」 いままでよりも一際大きな爆発音が鳴り響いた。 立ち上る土煙の中、ルイズは今までにない手ごたえを感じ、成功を確信していた。 しだいに土煙がはれ、使い魔の正体が明らかになっていくと周囲の疑念の声は嘲笑になった。 土煙の中心にいたのは、一人の少年だった。 悠二はいつの間にか土煙の中にいた。 先ほどまでビルの屋上にいたはずなのに、鏡に触れた次の瞬間、そこは見知らぬ場所だった。 「くっ、封絶」 悠二が封絶を展開したとき既に土煙はほとんどはれていた。 比較的大きな封絶を展開したが、“紅世の徒”の気配もフレイムヘイズの気配も感じ取ることは出来なかった。 周囲を見回してみると、奇妙な格好をした同年代の少年少女たちや、ゲームや漫画でしか見たことがないような生き物がいた。 当然のことながら、封絶内なので全ての生き物が止まっていた。 周りの少年たちの顔立ちを見ると外国人のようだ。 それにみんなマントのようなものを身に着けているのでどうやら学校か何かのようだった。 戦闘体勢の人もいないようなのでひとまず敵ではないようだ。 そこまで確認して悠二は封絶をといた。 周りからは明らかに馬鹿にした笑い声が聞こえてきた。 まだ警戒はしているが、気分のいいものではなかった。 「あんた、誰?」 目の前にいた桃色の髪の少女に話しかけられた。 「……誰って、僕のこと?」 「あんたに話しかけてるんだからそうに決まってんでしょ。まあいいわ、あんた変な格好してるけど平民ね」 悠二が答える前に、目の前の少女が矢継ぎ早に話し始めた。 悠二自身は、ジャケットに厚手のズボンだったので変という格好ではないと思った。 季節にあってはいないようだったがそれはこの際どうでも良かった。 (変なのはそっちじゃないか。しかも平民って何だよ。どこの国の人間だ?) 悠二はそんな余計なことも考えられるほど警戒心はなくなっていた。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 周囲の誰かが目の前の少女にそう言うと、少女は顔を真っ赤にし反論する。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」 しかし、少女の反論も周りからの揶揄に取って代わってしまう。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「さすがはゼロのルイズだ!」 どうやら目の前の少女はルイズといい、自分は『サモン・サーヴァント』なる自在式でルイズに呼び出されここにいるようだ。 相手に敵意がないことと呼び出された方法はわかったが、まだまだわからないことがある。 悠二はそう思い、ルイズに話しかけようとしたが、突然ルイズが声を張り上げた。 「ミスタ・コルベール!」 そうルイズが怒鳴り、現れたのは中年の男性だった。 この男性も奇妙な格好をしていた。手には木の杖のようなものも持っていた。 悠二は、ひょっとするとここは外界宿なのかもしれないと思った。 ただし呼ばれた目的は皆目見当がつかなかったが。 「もう一回召喚させてください!」 ルイズは、いままで何度も失敗してようやく召喚できたのも忘れ、コルベールに詰め寄った。 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか?」 「一度呼び出した『使い魔』は変更することは出来ない。 何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。 好むと好まざるとにかかわらず、彼を使い魔にするしかない」 そんなのはルイズも頭ではわかっていた。 しかし、平民を使い魔にするというのは貴族としてのプライドが許さなかった。 「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 ルイズがそういうと周りの生徒が笑う。 コルベールは諭すようにルイズに言う。 「確かに前例はないかもしれないが、それでも君が呼び出した使い魔なんだ。 それとも君はせっかくの魔法成功をふいにするつもりかな?」 そう言われてルイズははっとした。 (そうだ、平民といえども初めて自分が成功した魔法なんだ。 せっかく成功したのにこれを無駄にするわけにはいかない。) 「では、儀式を続けなさい」 コルベールが促すとルイズは先ほど召喚した平民の少年に向き直る。 少年は辺りを見回していたが、ルイズが近づくと振り返った。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 そう言うと、若干唖然としている少年を一瞥したあと、目を瞑る。 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 呪文を唱え、杖を少年の顔の前に掲げる。 そして、覚悟を決めると一気に少年の唇に自分の唇をくっつけた。 「終わりました」 ルイズがそう言うと、悠二の体が燃えるように熱くなり、左手の甲に激痛が走る。 その突然の痛みに悠二は封絶を展開することも出来ない。 「ぐううおおおおおお」 痛みはすぐに治まったが、悠二は攻撃に備えるためにルイズから距離をとる。 「使い魔のルーンが刻まれただけよ。そんなに警戒する必要はないわ」 少年の警戒する様子を見てルイズは説明する。 「使い魔のルーン?」 「そ、使い魔のルーン。ところで、あんた名前は?」 「僕は、坂井悠二」 「ふーん、変な名前ね。まあいいわ、あんたは今日から私の使い魔だから」 当たり前のようにルイズは宣言するが、悠二にはさっぱり意味不明であった。 「ちょっといいかね」 そう言ってコルベールと呼ばれていた男性が悠二の手を取る。 「ふむ、珍しいルーンだな」 そう言いつつ悠二の左手の手の甲に刻まれたルーンをスケッチしていく。 そのときになって初めて悠二は自分の手の甲に何らかの紋様が刻まれていることに気がついた。 「これが使い魔のルーン? 自在式じゃあないみたいだな」 「ジザイシキ? ま、これであんたが私の使い魔だってわかったでしょ?」 「ちょ、ちょっと待って! まず使い魔って何? それとここどこ? どうして僕はここにいるの?」 とりあえず悠二は現在疑問に思っていることを口に出してみると、ルイズはめんどくさいというかのように大きくため息をついた。 「さて、じゃあみんな教室に戻ろう。ミス・ヴァリエール、彼は混乱しているようだから色々説明してあげなさい」 そういうと、コルベールという男性は中世欧州の建造物のような城に向かって飛んでいってしまった。 それの後を追うように他の少年たちも飛んでいった。 非日常に足を踏みいれて半年ほど経つ悠二であったがこれには驚いた。 「飛んだ?」 悠二は、他の人が飛んでいるのはさまざま見たことはあったが、何も使わずに飛んでいるのを見るのは初めてであった。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないからな!」 飛んでいく生徒たちがそう揶揄していたが、悠二にはまったく聞こえていなかった。 「あれって、どうやって飛んでるの?」 「ああもう、うるさいわね! いまからそれを全部説明するからついてきなさい!」 ルイズはそう言って城に向かい歩き出した。 悠二を伴ってルイズは自分の部屋に戻ってきた。 「それで、あんたの質問は何?」 若干いらいらしながらも悠二に質問を促した。 「えーと、まずここどこ? 使い魔って何? 何で僕をここに呼んだの? それから」 「うるさいうるさいうるさい! 質問は一つずつにしなさい!」 「……あ、ああごめん。じゃあまず、ここどこ?」 「ここはトリステイン魔法学院。そんで私、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの部屋」 悠二の頭の中にクエスチョンマークが浮かんだ。 トリステイン? そんな地名聞いたことない。 それに魔法? 魔法なんかあるのか? いや“紅世”さえもあるんだ、魔法があっても不思議じゃあないのかもしれない。 「他には?」 「トリステインってどこにあるの?」 「トリステインはガリアとゲルマニアに挟まれてる国よ。ちなみに王都はトリスタニア。あんた、そんなことも知らないなんて、どんな田舎から来たのよ」 ため息を交えながらルイズは答えた。 「日本って国知ってる?」 「ニホン? どこそこ、そんな地名初めて聞いたわ」 悠二は頭を抱えたくなってきた。日本がわからないなんてありえない。 でも、ルイズが嘘をついているようには見えなかった。 ふと窓の外を見てみると月が出ていた。 悠二が常の夜の鍛錬で見慣れていた月ではなく、二つの大きな月が輝いていた。 (ん? 月が二つ?) 「あの、月が二つあるんだけど」 そう悠二が言うと、おかしいものでも見るように悠二を見てルイズは言った。 「月が二つあるなんて当たり前じゃない。あんた、大丈夫なの?」 「たぶん大丈夫だと…… アメリカってわかる?」 「わからないわ。ねえ、もういい?」 頭痛がした。悠二はここで直感した、ここが異世界であると。 それでもまだわからないことはあった。 その後も悠二は様々なことを聞いた。メイジのこと、使い魔の仕事、自分の立場全てが頭を抱えたくなることばかりだった。 「元の場所に戻る方法ってあるの?」 「ないわ。使い魔の契約は一生だもの」 悠二は今度こそ頭を抱えた。 元の世界で長い時間、世界を守っていくと決めたのに、何より二人の少女との約束も守れない、たくさんの人に心配をかけることになる。 「どうにかして戻れないのか? 僕は戻らないといけないんだ!」 今までにない悠二の気迫にルイズは圧倒された。 「さ、探してみるわ。それと、あんたも図書館を使えるようにするから」 「ああ、わかった。代わりに使い魔の間は必ずルイズを守ると誓うよ」 「まあ期待しておくわ。ふう、しゃべったら眠くなっちゃった」 考え事している悠二の頭に何かが乗っかった。 「? って下着!?」 「それ、明日になったら洗濯しといてね。じゃあ、おやすみ」 この瞬間、悠二の悩みの種がまた一つ増えた。 ルイズが寝てしまってから悠二は部屋を出ていた。 洗濯をする場所などの確認をするって理由もあったが、もう一つ気になっていることがあった。 零時に自身の“存在の力”が回復するか否かであった。 この世界に召喚される前に、“紅世の徒”との戦闘があり“存在の力”をだいぶ消費していた。 だから、回復できないとなると、まさに生死にかかわる問題であった。 学校の周りを歩いていると、人影を見つけた。 近づいてみると、どうやらメイドさんのようだ。 初めて見る生メイドさんに少しばかり感慨を覚えつつ話しかけた。 「あの、すみません」 「ひゃぅい」 メイドさんは驚いたようだった。 (誰もいないと思っていたのにいきなり後ろから声をかけられれば驚くのは当たり前か、しかも夜だし。) 「驚かせてすみません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」 「はい。何なりとお聞きください……あの、もしかして、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 「え? 知ってるんですか?」 「ええ。召喚の魔法で平民を呼んでしまったって噂になってますよ」 彼女の話を聞いても、やはり人間が召喚されるのは稀のようだった。 あんまり噂されるのは気分良くないな、と思いながら本題を切り出した。 「日付ってもう替わりましたか? それと、洗濯ができる場所を教えてほしいんだけど」 悠二がそう言うと、彼女は時計を見てから答えた。 「日付はもう少しで替わります。洗濯場でしたら案内しますよ、ちょうど着くころに日付も替わると思います」 こうして悠二はメイドさんに案内されて洗濯場に連れて行ってもらった。 向かう途中の話で彼女はシエスタという名前だということがわかった。 「ここが洗濯場です。あと、日付も今替わりました」 彼女がそう言うのとほぼ同時に自分の“存在の力”が回復するのを感じた。 「わざわざありがとうございました、シエスタさん」 そうシエスタにお礼を言い、ルイズの部屋に戻った。 部屋に戻ってから、悠二は今日一日を振り返った。 (ひとまず大きな危険はなくなったけど、元の世界に戻るまではまだまだ問題は多そうだ。 さしあたっては、寝る場所かな。とりあえず、ここにいるのは一種の鍛錬ということで、なるべく封絶は使わないようにしよう) と、悠二はこれからの生活に不安か感じつつ床に寝転がり目を閉じた。 前ページ次ページ残り滓の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/910.html
今年もトリステイン魔法学院の入学式は無事に終了した。途中、学院長のオールド・オスマン氏が派手なパフォーマンスを行おうとして失敗して大怪我を負って、式の行われていたアルヴィーズの食堂は一時騒然としたが、毎年の事なので教師が手早く介抱し、事無きを得た。その後、教師の説明で新入生はソーン、イル、シゲル、とそれぞれ伝説の聖者の名が振られた三つのクラスへと分けられた。自分達のクラスへ向かう途中、ある生徒は隣り合って初めて知り合った者と、またある生徒は以前からの知り合いと、それぞれがこれからの学院生活への展望や夢を語り合っていた。皆の顔は晴れやかで初々しく、生気がみなぎる様子に傍から見守る教師達の表情も柔らかい。 新一年生を迎えたイルのクラス。そこでは担当の教師が声を張り上げ、生徒達に学院心得を説明しているのだが、何故か皆の反応が薄い。それを奇妙に思った教師は、教壇から訝しげに生徒達の席を見渡すと、ある一角だけが空洞となっていた。そして周りの生徒達はそこに目をやり、ひそひそと話し合っているではないか。何事かとその一角を見ると、教師は「成程」と納得した。服装の統一された一年生ばかりいるこの教室内で、彼女の格好、特にマントの色がおかしい事に気付いたのだろう。さらに彼女のやたら険しい表情で黙りこくる様子に、先程まで脳が天気だった生徒達は、そんな空気の違いに戸惑っているのだ。教師は嘆息すると、この雰囲気の原因となっている、自身も『一年前』からよく見知っているその生徒に声を掛けた。 「あー、ミス。ミス・ヴァリエール。新しいマントは支給されたはずでしょう。一年の始めから団体生活の環を乱すのは感心できない。着替えてきたまえ」 教師に注意された生徒は、陰鬱な表情で「はい」と答えると、素早く立ち上がり退出した。途端ざわめきだす教室に、教師はうんざりとした表情で教卓を叩いた。その音に一旦は静寂を取り戻したものの、落ち着きの無い貴族の子弟らはまだひそひそと話を続けている。再び教師は嘆息し、彼女――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの事を生徒らに説明した。 「彼女のマントの色が違っていたのは留年した生徒だからです。本人はその事をいたく気にしている様なので、決してからかったり、変に同情したりしない事。以上。それでは講義の説明に移ります。まずは――」 自室へと歩を進めるに従い、段々と教室の喧騒が遠ざかっていく事に、ルイズは疲れた表情で項垂れた。彼女にとって周りは知らない顔ばかり。先程は怪訝な表情をしていた彼らだが、きっと一ヶ月もしないうちに、それは侮蔑と嘲笑に変わるだろう。何故ならルイズは、貴族が貴族足りえる証の魔法を使えない『ゼロ』だから。誰でも成功させるはずの「サモン・サーヴァント」にさえ失敗し、二年への進級を取り下げられた『ゼロのルイズ』だから。その事実に、暗かった彼女の顔はさらにどんよりと曇り、足取りは重くなるのだった。 ルイズは部屋に戻ると内側から鍵を閉め、ベッドへと身を投げてうつ伏せになった。去年からの一年間、ずっと使ってきた柔らかい高級羽毛枕に顔を埋め、肩を震わせて嗚咽を漏らす。暫くそうしていた彼女だが、段々とそれにも飽きたのか、今度は起き上がって枕を両手に持ち、ベッドにばしばしと叩きつけ始めた。枕に八つ当たりするその姿は滑稽だったが、誰も見ているものはいない為、遠慮など無い。彼女は悔しげに歯を食いしばり、目には涙を浮かべて叫んだ。 「このっ、このっ! 何で私がっ! 誇り高き公爵家のっ、この私がこんな目にぃっ!!」 ルイズは泣き叫びながら、先日の出来事を思い返していた。ニ週間前、二年生に進級する際に行われる、春の使い魔召喚儀式において、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは通算百二十九回目の挑戦を行っていた。既に空は朱に染まり、傍にいるのは担当のジャン・コルベール師のみである。彼は既に召喚を終えて、ルイズを嘲笑しながら去る生徒達を見送り、熱心に呪文を唱える彼女を見守り続けていた。しかし、いい加減に儀式の終了を学院に伝えなければならない。彼の報告が終わって初めて、生徒らが二年生に上がることが出来るのだ。たった一人の為にこれ以上の時間を割く事は出来ない。夕焼けに染まるルイズの横顔を見たコルベールは、苦渋の表情で彼女に告げる。今回はもう諦めたまえ。機会はこれだけでは無い、と。 「まだです! きっと成功します! だから、だからもう少しだけ待ってください!」 涙を流しながら、必死に訴える彼女の表情に、コルベールも良心が痛んだのか、最後の機会を与える事にした。次の一回で使い魔を召喚する事、結果の如何を問わず、それで儀式を終了する事を宣言し、彼は静かに一歩下がる。師の厳しい返答に、ルイズは鼻をすすって目をこすり、両手で頬を張って気合を入れた。次が最後。次で決める。硬く決心した彼女は、大きく深呼吸し目を瞑ると、片手に持った杖に精神を集中させた。そして高らかに呪文を唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、答えなさいっっ!!」 」 広場に響き渡る巨大な爆音。それと共に濛々と広がる大量の『霧』に、ルイズとコルベールの二人は咳き込んだ。続いて轟々と唸りを上げる爆心地に、ルイズははっと目を向けて歓喜した。手応えありだ。間違いなく成功した。召喚を確信したルイズは『霧』が晴れるのを待つ。後ろにいたコルベールは目を丸くしてその様子を見守っている。やがて『霧』は渦を巻き始めて、やがて大きな風を起こして破裂した。その『霧』を含んだ風はやたらに酒臭く、二人は疑問に思ったが、そんな事はどうでもいいと、すぐに意識を爆心地へと向ける。使い魔を確認しなくてはならない。そして目を向けたその中心には――何も無かった。 「は?」 「おや?」 やたらと派手な現象を起こしたにも関わらず、結局そこには何もいなかった。つまり、召喚は失敗したのだ。呆然として膝をつくルイズに、頭を抱えて天を仰ぐコルベール。そして長い時間、痛い沈黙が辺りを支配した。暫くするとコルベールはルイズへと向き直り、近づいた。その足音にびくりと肩を震わせたルイズは、ゆっくりと彼のいる方向へ振り返る。既にお互いから五歩程度の距離しか離れていなかった。二人は目を合わせる。懇願の意を視線に含める彼女に向かって、彼は目を閉じて首を横に振る。春の使い魔召喚儀式は、これをもって終了したのだ。たった一人の落伍者を出して。 回想から戻ったルイズは、ベッドから立ち上がり窓を開けた。既に時刻は夕方となっていた。思いのほか長い間、思索に耽っていたらしい。これはいけないと頭を振って気を取り直すと、ルイズは自分に言い聞かせる。公爵家の娘はへこたれない、こんな逆境など屁でもない。既に空には一番星が見える。その星の向こうに、遠くはなれたラ・ヴァリエール公爵領で静養している優しい姉の姿を垣間見たルイズは、拳をぐっと握って誓いを立てる。サモン・サーヴァントは来年の今頃になってしまうが、次こそは絶対に成功してみせると。公爵家の名にこれ以上泥を塗るわけにはいかないのだ。そう硬く心に決めたルイズは、キラキラとした瞳で再び一番星を見上げる。すると今度は優しい姉の横に、自分をいじめる恐ろしい姉の姿も見えてしまい、やる気が一気に萎えた。まだ連絡は無いけれど、留年した事は実家からかなりお叱りを受けるに違いない。げんなりとしたルイズは、溜息をついてこれからの生活を思い、憂鬱になった。 ベッドに戻って、夕食もとらずに早めの床に着いたルイズは、耳をつく喧騒に顔を顰めて起き上がった。アルヴィーズの食堂から聞こえてくる音だ。彼女が夕食にいかなかったのは空腹ではないからとか、二年にあがった元同級生と顔を合わせるのが嫌だから、という理由ではない。ここ最近、やたらと頻繁に開かれるパーティに嫌気が差していたのだ。 最初は使い魔召喚に失敗した夜、ルイズを励まそうと怨敵キュルケが残念パーティを主催した。大きなお世話だ、と思いつつも、悪友の心遣いに感謝してグラスを傾けていたルイズだが、時間が経つにつれ場の雰囲気が怪しくなってきた。最初は一クラスだけの立食パーティだったはずが、何故か学年全体、次第に教師も含めた学院全体の大規模なものへと変貌していたのだ。流石に不審に思ったルイズは、キュルケの姿を探し出し、問い詰めた。 「ちょっと、キュルケ……何だってこんなにも人がいるのよ?」 「えぇ~? あんだって~?」 酷く泥酔した悪友のその様子に、唖然としたルイズ。彼女は果たしてこんなにも酒に弱かったか?そう思い周囲を見渡して、さらにルイズは驚いた。かなり強い酒のボトルが十数本空となっていたのだ。そしてキュルケの隣には、ルイズの知らない青髪の小柄な少女のみ。そして彼女もまた目が座っている事から、相当な量を飲んでいることが伺える。つまり、たったの二人でこれだけの量を飲んだという事か? あっけを取られたルイズを無視して、キュルケ達は千鳥足でその場を去っていった。確かにパーティの初めに、やたらと多く用意された酒があったがこんな事になっていようとは。 嫌な予感がして、他の人間を見ると、やはり皆泥酔している。酔っ払った貴族の子弟達は、大声で笑いあい、殴り合い、時には泣いて絡み酒。とんでもない大騒ぎだ。最早これは貴族の開くパーティなどではない。下々の平民が酒場などで行う『宴会』だった。主賓のはずのルイズは既に忘れ去られ、酒を飲むことに執心する彼らに、ルイズは呆れて部屋に戻った。もう付き合ってはいられない。 そしてその三日後である。ちょっと前にパーティを行ったばかりだというのにまたパーティが開かれるというのだ。それは、やはり以前と同じく酒にまみれた凄まじいもの。開催の名目を聞いてみると三年生と二年生の進級パーティだそうだ。実に阿呆らしい。全く関係の無いルイズはその場を離れると、部屋に帰って不貞寝した。さらにその三日後、夕食のために食堂を訪れたルイズは、扉の向こうの喧騒に驚いた。案の定、中では既にその週で三度目のパーティが開かれていた。流石にこれはおかしいと思ったルイズは、忙しく走り回っていたメイドの一人を捕まえて問いかける。これは何の騒ぎか、と。メイドはこう答えた。 「学院長の……その、水虫が完治した記念だそうです」 あまりと言えばあまりの内容に絶句したルイズを尻目に、忙しさを理由にしてメイドは一礼するとその場を去った。それからは大体において三日、或いは二日置きにパーティは開かれている。最初は「コルベールの額が広がった記念」だの、「ロングビルのお尻に三秒触れた記念」だのと、実にくだらない理由で開かれていた。しかし、既に理由を考えるのも億劫になったのか、最近は何の言い訳も無く、パーティが開かれるようになった。 これは異常事態と言っても良いのではないだろうか。預かった貴族の実家から多大な出資を受けているこの学院だが、そんなくだらない理由でパーティばかり開いていては、予算などすぐに尽きてしまう。遠からず学院幹部の責任を問われる事となるだろう。そんな事になっては国家の恥となる。なのに、学院長を初め、教師と生徒は何の危機感も覚えていないらしい。三日おきに何かに誘われるように、ふらふらと食堂へ向かう彼らに異常を感じているのは、どうやらルイズ一人のようだ。 きっと今もパーティは開かれているだろう。しかも今度はちゃんと理由がある。新入生歓迎パーティだ。すぐに新入生達も、三日おきのパーティに疑問を持たないようになるのだろう。解決する術を探そうにも、頼るべき師達は酔っ払い、級友たちも以下同文。現状においてルイズに出来る事は何も無かった。 「はぁ……一体どうしちゃったのかしら、ここは」 暗い面持ちで耳を塞ぎ、ベッドに潜り込んだルイズは、召喚の呪文と共に現れたモノを思い出していた。全ては使い魔召喚の儀があった日から。やはり、あのやたらに酒臭い霧の様なものが何かに関係しているのではないか、そんな考えを抱きながら、ルイズは段々と微睡み始めていく。 薄れる意識の中で、ルイズは視界の端に『角の生えた少女』を見たような気がした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6408.html
前ページ次ページゼロの伝説 その日、トリステイン魔法学院では、春の使い魔召喚の儀式が執り行われていた。 生徒達は自分の使い魔となる生物の容貌を期待に胸を膨らませたりしているが、彼らの系統を判断するための大事な儀式なのだ。 大方の生徒達は召喚を終えたが、派手な爆発を繰り返すだけで、一向に使い魔の姿を見せない召喚を繰り返している生徒がいた。 召喚に全く成功しない彼女を、周りでその様を見ている生徒は指差し、声に出して嘲り笑う。 普段から魔法の成功を見せたことのない彼女を馬鹿にする者は少なくない。彼女は半ば自棄になって召喚に挑んだ。 「宇宙の果てのどこかにいる私の下僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!」 何度目かも判らない召喚に、とうとう彼女の使い魔は現れた。だが、その使い魔の容貌は他の生徒の召喚したもののそれと大分異なっていた。 赤く立派な馬を繰り現れたのは、剣と盾を背負い、緑色の服と帽子とスカートのような衣装を身に纏う、金髪の青年だった。 一見すれば彼は、ハルケギニアで魔法の使える貴族からすれば、身分の低い平民だった。 ―ゼロのルイズが平民を召喚した! 取り巻きが、いつもの調子で彼女――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを馬鹿にしようとしたところで、 青年の、人間とのある違いに気が付いた。ハルケギニアの人間との、決定的な違いに。 その違いに気付いた時、彼らは驚愕し、開けた口を塞ぎもせず、無様に腰を抜かし、震え、中には逃げ出す者や穏やかならぬ物腰で杖を構えるもいた。 ハルケギニアの人間には無い、長く尖った耳。それを持つとされている者は、この大陸では、少なくとも人間にとっては脅威の存在だった。 生徒の一人が、未だその使い魔の正体に気付いていない他の生徒に、叫んだ。 「エ ル フ だ ぁ ぁ ぁ あ あ あ !」 そこからはもう大騒ぎだった。 転びながら必死に逃げ出す生徒もいれば、大声を上げて泣き出す者もいた。 彼を召喚した当の本人であるルイズには、とんでもないものを喚び出してしまったという後悔の念を抱いていた。 今回の召喚式の監督官を務めていた教師ミスタ・コルベールは、この恐怖すべき存在を目の当たりにして、 最初は頭が真っ白になったが、すぐに生徒に避難するよう指導した。 一方、突然に召喚された、エルフと呼ばれた青年は、何が起きたのか理解出来ていなかった。 自分は平原で馬を走らせていた。愛馬の散歩のつもりで。それが突如として目の前に出現した鏡に馬ごと突っ込み、 気が付いたら見知らぬ格好をした者達に包囲されていた。彼らに敵意は無さそうだったが。 暫く周りを見渡した後、自分の知る土地ではないと直感的に判断すると、目の前に突っ立っていた桃色髪の少女に ここは何処かと尋ねようとした時、彼らの一人がいきなり叫び出した。 だが、それが何を意味する言葉かは解らなかった。自分の知る言語ではない。では、他の大陸に来てしまったのだろうかと青年は考えた。 青年が呆気に取られていると、いつの間にか自分を見ていた者達は殆どいなくなっていた。彼は馬から降りると改めて目の前の少女に優しく尋ねた。 「ア|,ココH├コテΓiΠ?」 だが、尋ねた後で、そういえば言葉が通じないのだったと思い出し、苦笑する。 一方、尋ねられたルイズは言葉にならない呻き声を上げるにとどまる。その時、彼女の後ろから悲鳴のような声が飛んできた。 「ミス・ヴァリエール! そのエルフから離れなさい!」 その言葉にルイズは正気に戻り、青年から離れる。その様子を青年は不思議そうに見たが、今度はミスタ・コルベールに尋ねようと、馬を引いて歩み寄る。 近寄る青年に対してミスタ・コルベールは後退る。一歩進めば一歩下がる。埒が明かないので、 腰を抜かして逃げ遅れていた男子生徒に、他人に道を訊くかのように手を上げると、彼はヒッと呻いて持っていた杖を顔の前に持ち、しかし意識を失ってしまった。 よく見れば、皆が皆、杖を持っていたことに気付く。服装からすると魔術師だろうかと青年は考える。 攻撃してくる気配を見せないエルフと思しき青年の真意を、ミスタ・コルベールは探る。 しかしそれは、青年から離れ逃げた筈のルイズが再び青年の前に飛び出してきたことで中断された。 「ミス・ヴァリエール!? 戻りなさい! エルフは危険だ! 使い魔の召喚ならやり直しを……」 ミスタ・コルベールが制止するが、ルイズは振り向かずに言った。 「……召喚の儀は神聖なもので、やり直すなどという行為は許されない筈です。 それに、彼を喚び出したのは私です。やらせて下さい、コントラクト・サーヴァントを!」 「ミス・ヴァリエール! 危険です!」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 早口にそう唱え、青年に契約のキスをしようとしたが背が足りない。震えていたが迷いのない両手で青年の頬を挟み、 その顔を自分に近付け、近付いてくるルイズの顔に彼が何かを言う前にルイズは契約のキスをした。 突然キスをされたことに青年は驚き、ルイズの両肩を掴み引き剥がす。それと同時に左手の甲に激しい痛みと熱さを感じ、思わず右手で抑える。 それが治まった直後、今度は左手ほどではないが右手の甲にも痛みと熱さが彼を襲った。 普通のコントラクト・サーヴァントでの使い魔の様子とは違うことに、ミスタ・コルベールは疑問に感じた。何故、両手とも抑えたのか。 二度目の痛みが治まり、青年の様子が落ち着いたことにルイズは安堵した。 だが次の瞬間、いつの間にか抜刀されていた青年の長剣の切っ先は、彼女の首まで1ミリメイルもない位置にあった。 「何をした」 青年は冷たい声で問うた。 「答えろ」 「つ、使い魔のルーンを刻み込んだのよ」 「何だ、それは?」 困った。このエルフはそんなことも知らないのだろうか。いや、人間のやることなすことなど知りたくもないといった敵対心の現れだろうか。 それにしても、だ。 「貴族が使い魔を使役することぐらい、知っているでしょ?」 「ツカイマ……?」 そこから説明しなければならないのだろうかとルイズは思ったが、ヘルパーみたいなものだと告げると、青年はとりあえず剣を下げ鞘に仕舞った。 間違っても「奴隷なみたいなものだ」などと言っていれば、間違いなく殺されていたに違いない。エルフと人間との関係を考慮に入れれば、 それはルイズに限らずハルケギニアの人間にとっても確信だった。 その時、青年は周りの生徒が何を言っているのかを聞き取ることも、その意味を理解することも出来た。 「ほ、本当に大丈夫なのかよ。エルフを召喚するだなんて、危険なドラゴンや植物よりも質が悪いぞ」 「馬鹿、目を合わせるな、声がデカい」 エルフとは何のことだろうか、ドラゴンなら、魔力を与えられて動き出した巨大な何かの竜の骸と一戦交えたことはあるが。 召喚という言葉も気になる。青年はルイズに尋ねた。 「自分の種族も分からないの? あなたみたいに耳が長い人のことを、こっちではエルフって呼ばれてるのよ。召喚は、使い魔を呼び出すことね」 暴れる様子のない青年を見てほっとしたのか、ルイズはご主人様然とした態度で返した。 種族という言い方に疑問を覚えたが、今は気にしないことにした。エルフとはこの土地での、自分のような容姿を指す言葉だろう。 青年はそう考えたが、ここに来させられた理由がまだよく解っていないことに気付き、ルイズに尋ねた。 「あたしがあんたを使い魔として召喚したからよ」 「あそこにいる奴らは、」 言いながら、先程の生徒に指を差す。差された二人が少し悲鳴を上げた。 「ドラゴンも召喚されるみたいなことを言ってるが」 「勿論、召喚したのも居るわ。ただ、私が召喚したのが偶々あなただっただけ」 「人間と魔物の召喚される可能性は平等にあるということか」 「そう、人間と魔物は……え……?」 魔物というハルケギニアでは聞き慣れない単語に、ルイズは魔法生物のことと解釈した。だが、彼は最初に何と言った。 「俺以外に召喚された人間もいるのだろうな。それにしても、魔物の方が多いな。人間が見当たらない」 「あ、あなた、エルフなのよ?」 「この地方ではそう呼ぶらしいな」 「その長い耳は何なの? 飾り?」 「馬鹿を言え、生まれつきだ。それにハイリアの人間は誰もが長く尖った耳だ」 青年が自らを人間、人間と繰り返し言うのにルイズは、彼はもしや耳の長いただの人間なのではないかという危機感を抱いた。 そしてそれは、ルイズが青年に尋ねた質問の答えによって決定的となった。 「あんた、魔法使える?」 「魔法力はあるが術の方は駄目だ」 「そんなぁぁぁああああ!!!」 少女の悲痛な叫び声を、トリステインの青い空は嘲笑うかのように見下ろしていた。 前ページ次ページゼロの伝説
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/60.html
>>back >>next ─ちょっと脅かしすぎたかしら? 八雲紫は倒れ伏した桃色の髪の少女の前でどうするか困っていた。 自分の身に起きた出来事に気分が高揚し、つい調子に乗ってからかってしまった。 その結果、自分を召喚したであろう少女は気絶してしまった。 そう、自分は召喚されたのだ。この年端もいかぬ少女によって。 長い間生きてきてこのような事は初めてだった。 神社で行われていた恒例の宴会も終わり、片付けを式と式の式にまかせ 酔い覚ましに夜間飛行と洒落込んでいた時の事だ。 突如目の前に『鏡』の様なモノが現れて自分を飲み込んだ。 咄嗟の事に対処が遅れ、そのまま辿り着いた先がこの場所である。 「ここ」が幻想郷ではない事はすぐに分かった。 幻想郷を包む博麗大結界の存在を感じ取れない上、空を見上げれば ─晴れていて見難かったが─自分が名付け慣れ親しんだ星座も見当たらない。 そして目の前にはどことなくあの「鏡」と似た力を感じる少女。 これだけの材料が揃えってしまえば紫の聡明な頭脳はあっという間に答えを叩き出す。 ここは異世界(というより地球とは別の星)で、自分を呼び出したのはこの桃色の髪の少女だ。 ─とりあえず、呼び出されたからには理由を聞かないとね。 普段ならおかしな術をかけてきた無礼者などは即スキマ送りだが、紫は今までに無い事に好奇心を刺激されていた。 少女に近づき、目を覚まさせてやろうと紫が手をかざしたその時である。鋭い声がかけられた。 「私の教え子から、離れろ」 トリステイン魔法学院の教師、『炎蛇』のコルベールは決意していた。 二度と破壊の為に炎を使う事はしないという誓いを破ることを。 魔法を使えぬ問題児ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがサモン・サーヴァントにやっと成功した時は ほっと一息ついたものだが、召喚されたものを見て身の毛がよだった。 ─何なのだあれは! 周りの生徒たちも、普段ならばルイズが何か仕出かす度にからかおうとするが 今回ばかりはこの異様な雰囲気に呑まれ一言も発する事も出来ないようだ。 そして他の者のように違和感を感じていないのか、ルイズがその「何者か」に声をかけた。 すると、ルイズは全身を震わせ、ばたりと倒れたではないか。 何事かと思い「何者か」を目を向ければ宙に浮いていた。否、宙に浮かぶ「何か」に座っていた。 それは恐ろしく禍々しい、形容しがたいものであった。 「何か」を見た瞬間、コルベールの本能が警鐘を鳴らした。 あれに近づいてはならない。あれに触れてはいけない。あれに関わってはいけない── 生徒達もそれを感じ取ったのか、震えだすもの、呆然とするもの、気の弱い生徒などは泣き出していた。 しかし、あれの近くにいるのは、守るべき自分の生徒だ。助けねば。 そう思い直したコルベールは荒くなった呼吸を整え、「何者か」に鋭い視線を向けた。 「ミス・タバサ」 「……はい」 「君は使い魔に乗って学院へ飛びなさい。オールド・オスマンに伝言を。 『緊急事態 救援を求む』と」 「はい」 「ミス・ツェルプストー」 「は、はい?」 「今すぐにここから避難だ。他の生徒達を先導してくれたまえ」 「で……でも」 キュルケはルイズと「何者か」に交互に目を向け迷っている。 「早くしたまえ。彼女は私が助け出す」 「ヴァリエール……っ。……お願いしますわ、ミスタ・コルベール」 コルベールの只ならぬ表情に感じるものがあったのか、キュルケは迷いを捨てた。 全く勝機を感じられない中、コルベールは意識を段々と戦いへ向けて切り替えていった。 ─二十年前の罪を償う事は結局出来なかった。 この命は「あの村」で生き残った娘の為に残しておくつもりだったが……。 「何者か」がルイズに近づき何かしようとしている。 コルベールはルイズの倒れた場所に向かって、急ぎ歩きだした。 一方その頃、我らが主人公ルイズは悪夢に魘されていた。 ゆかゆかー ゆかりん ゆかりゆかゆかー 「何なのよアンタらーーーっ!」 袋を頭に被った裸の男の群れが、大声で歌いながら近づいてくる。 一体何の冗談だ。 かっわいいよっ かっわいいよっ ゆっかりんりん! 「いーーーやーーー!」 逃げても逃げても追いかけてくる。 少女臭が! 少女臭が! あっががっがが! >>back >>next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3992.html
前ページゼロの調律者 ゼロの調律者 第一話 ~リィンバウム王都ゼラムに向かう街道~ 「おにいちゃん、もうすぐだね。」 「ああ、派閥本部に帰るのも久しぶりだな。……予定より随分遅れてるし、ネスティに怒鳴られそうだ。」 青の派閥の召喚師マグナは、ワイスタァンにて新人鍛冶師の護衛獣を召喚すると言う任務を終えて、護衛獣で婚約者のハサハと一緒に派閥本部に帰る途中であった。 彼を気に入ったと言う理由で金剛の鍛聖リンドウ氏に散々いぢり倒された。 更に剣を打ち直してやるから地下迷宮行って材料揃えてこい、カレー食べたいからちょっと作って来い、 その護衛獣の子の尻尾見るからにさわり心地良さそうじゃな、触っていい?ダメ?そう言わずに君とワシの仲じゃろう?等の理由で帰還に大幅に遅れてはいるが。 (大分前にデグレアに攻め込まれた時点で既にいい年の老人だったらしいけど、実際今何歳なんだろう・・・?) 思い出すたびに浮かぶ疑問を適当な所で振り払い、ハサハの手を握り直して帰路を急ぐ事にした。 ~リィンバウム 蒼の派閥本部~ そんな事を考えている内にゼラムに到着。蒼の派閥本部に戻り報告を済ませて自室に戻る。 「案の定怒ったな、ネスティ。」 「うん・・・、でも・・・、すごく心配してたよ?」 ハサハの言うとおりだろう。あの兄弟子はやたら心配性だ。 何かある度に「君はバカか!?」と怒鳴りつけてくる。 「だろうな。長旅で疲れたし、昼寝でもするか?」 日はまだ高いが、春先特有の睡魔と長旅の疲れもある。 「・・・(こくん)」 何よりハサハと一緒にお昼寝すると言うのが心地良い。 軽く伸びをし、昼寝の為に装備一式を外そうと思ったその時、 「なんだこれ?」 突然目の前に鏡が現れた。 とりあえず召喚特有の光は無かったし召喚術による物ではないと判断。 鏡に部屋のど真ん中に居座られても邪魔なのでとりあえず動かそうと鏡を掴む。 「うわ!?」 掴もうとしたら鏡にすごい力で引き込まれ始めた。咄嗟にさっき床に下ろしたばかりの荷物を掴む。 「おにいちゃん!」 ハサハがマグナの身体に抱きつき必死に引っ張るが、魔力は異常なまでに高いけど腕力はからっきしなハサハでは支えになる訳も無い。 マグナに抱きついたまま一緒に鏡に引きずり込まれてしまった。 ~ハルケギニア トリスティン魔法学院~ 春の陽気に照らされた広場に轟音が響く。 二年生に進級する為の春の使い魔召喚試験、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚を行った結果起きた大爆発だ。 「ちょwwww一発目から大爆発とかwwwww使い魔ミンチになったんじゃねwwwww?」 「マルコリヌ・・・それは流石に不謹慎と言うか、そういうグロい考えは言わない方がいいんじゃないかな?」 ルイズの後で何か言ってる連中がいるが今はスルーしておこう、巻き上がる煙の中に薄っすらとだが影が見える。 (やった!一発で召喚成功!何?グリフォン?ドラゴン?マンティコア!?) 召喚前から色々高望みしてたせいか、一発で成功した事でさらに期待で胸を膨らませるルイズ。 影自体はあまり大きくなかった。 (実は妖精とか?もうこの際珍しくてすごいのだったらなんでもいいわ!) 「いててて・・・って、ここ何処だ?ハサハ、大丈夫か?」 「・・・(こくん)」 煙が晴れるとそこには見慣れない服を着た青年と、やはり見慣れない服を着て頭から狐の耳を生やした少女が現れた。 青年は紺色の髪で背丈もそこそこあり、白と紺を基調とした服、何処か人懐っこさのある顔立ちをしていた。 少女の方は黒髪ですごく小柄、体格としてはタバサとルイズの間ぐらいだろうか?狐の耳と尻尾が生えており、透き通る様な白い肌、何か神秘的な美しさを感じさせる美少女だ。 (人・・・間・・・?と亜人・・・かな?一回の召喚で2種類も召喚なんて・・・いやそれ以前に人を召喚したなんて、前代未聞じゃない!?) 期待が大き過ぎた分ショックも大きかった。 「人間だ! ゼロのルイズが人間を召喚したぞ!しかも二人も!」 「アラ、結構いい男ね。」 「ウハwwwwwテラょぅι゛ょwwwwwwwみwなwぎwっwてwきwたwwwwwwwwww」 「マルコリヌ・・・今日の君はなんか変だぞ?それに、そう言う趣味だったのかい?」 ルイズは焦っていた。 後でキュルケと丸いのとギー・・・名前忘れたけどなんかヤムチャ臭いのが喚いてるが再びスルーしておこう。 今問題なのは人間を召喚してしまった事だ。しかも二人。 どうすればいいのか判断がつかず頭を抱えてると青年の方が話しかけてきた。 「えーっと、ここは何処なのかな?なんか召喚されたみたいだけど、リィンバウムじゃないみたいだし・・・」 聞きなれない単語もあった気がするがどうやら状況説明を求めているらしい。 そうだ相手はどうせ平民か何かだろう、貴族として貴族らしく振舞いまずは主従関係をハッキリさせよう。 「そうよ!私が貴方を召喚したの!本来貴族がへい・・・み・・・・・・」 言っている途中で青年は手に持ってる大きめのバッグに目がいった。バッグ自体は何の変哲も無いが、その側面に引っ掛けてある棒状の物体。 丈夫そうな木製の柄、先端には金属の装飾がついており小さいながら輝石もはめ込んである。 どう見ても高級そうな杖です本当にありがとうございました。 ルイズの顔色が段々血の気が引いていく。 普段マグナは剣を主体に戦うが、最近は剣で対処できない遠距離の相手を想定し、召喚術の威力増強用に杖も用意している。 もちろんルイズは召喚術について知る訳も無く、上等な服に杖=貴族と言うハルケギニアらしい判断をしてしまっていた。 貴族を召喚してしまった→学園最大最悪のスキャンダルの悪寒→下手すれば国際問題→自分のせいで戦争勃発\(^o^)/オワタ ルイズの脳内では既に最悪の図式が展開され始めている。 さっき危うく平民と言う単語と呼びそうになったが、なんとか言わないで済んだのがせめてもの僥倖だろう。 しかしここで頭髪が寂しい教師、コルベールも杖に気がついてかルイズと青年達にしばらくここに残るようにと声をかけ、他の生徒を教室に戻るよう指示を出す。 この時ルイズの目にはコルベールから後光(主に頭頂部から)が射している様に見えた。 「改めまして、私は当トリステイン魔法学院で教鞭を執っている"炎蛇"のコルベールと申します。ミス・ヴァリエール、貴女も挨拶を。」 「は、はい。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。」 コルベールに場を作ってもい、なんとかまともに挨拶をする。顔色は蒼白だが。 「俺はマグナ、マグナ・クレスメント。蒼の派閥の召喚師です。こちらは護衛獣のハサハ、シルターン出身です。」 「・・・(ぺこ)」 マグナの紹介にあわせてハサハも礼をする。 (ああ、貴族だ、やっぱり貴族だ・・・) マグナが家名まで名乗った事でルイズは本気で頭を抱えたくなった。既にコントラクト・サーヴァントの事は脳裏にすら残ってない。 「それで、俺は召喚されたんですよね?サモナイト石を使った召喚じゃないみたいだし、リィンバウムやシルターンじゃないとは思うんですが・・・」 ここでマグナの反応にコルベールは頭を捻る。リィンバウム?シルターン? ルイズはマグナの家名を聞いたショックで呆然としたままだ。 「あー、失礼ですが、少し場所を変えてお話しましょう。よろしいでしょうか?」 ~ハルケギニア トリスティン魔法学院 学院長室~ 「ふむ、それでは一旦コントラクト・サーヴァントしてしばらく使い魔として働いて、帰る目途が立ったら契約破棄。再召喚と言う方向でいいじゃないかの。」 学院長のオールド・オスマンが出した結論に一同は同意と言う形になった。 時間を少し巻き戻る。 オールド・オスマンは何時もののように秘書のロングビルにセクハラの報復としてメキシカンバックブリーカーを受けているとコルベールが学院長室にやってきた。 心なし声が切羽詰っている感じがしたので何事かと思いきや、ある生徒が使い魔を召喚したら貴族だったとの事。 一緒に入ってきた件の生徒と貴族と、お互いの立場や状況を話し合った。 なんでも召喚されたマグナと言う青年は異世界から来た人で、彼らの世界では魔法より召喚術と言う技術が発展しているらしい。 そして彼はそこでは超下級貴族のような立場ではあるが、かなり有力な組織に属しているとの事。 もちろん最初は異世界だなんて突拍子も無いと一蹴しかけたが、マグナがムジナと呼ばれるタヌキの様な生物を召喚・送還して見せたので納得せざるを得なかった。 マグナはマグナでハルケギニア式の召喚術はサモナイト石を使わない事、また送還術が存在しない事に唖然とした様子ではあった。 ただ一方的な召喚に対しては驚きはしたがマグナ本人があまり抗議してこなかった。 それに対しコルベールが疑問を口にしたが、 「リィンバウムは召喚術が基本だったから召喚事故も起きますからね。それが自分の起きたと思えば仕方が無い事だと思うんです。」との事。 ルイズもマグナが異世界から来たと言うのにとりあえず納得。 ただマグナが異世界出身の上に貴族としては下の下、国際問題にはならないとわかったせいか心無し緊張感もとけた模様。 そして話し合いの結果、ここでのマグナ達は東の果ての没落貴族が召喚され、しばらくルイズの使い魔をやっている立場であると偽装しておくこと。 学園側としては全力を持って送還する術を模索する事に決まった。 ルイズの個人的な願望としては、亜人と言う理由でハサハと契約したかったが、一応ハサハもマグナの使い魔の様な立場だと言う事で諦めた。 一応メイジ?みたいなものだしマグナがそれなりに実力があればルイズの実力の証明にもなるだろう。 「ではコントラクト・サーヴァントをしてもらおうかの。ミス・ヴァリエール、ミスタ・クレスメント。」 オールド・オスマンが髭を撫でながら契約を促す。 「は、はい!ミスタ・クレスメント、少し屈んでく、くだ、くださる?」 「あ、ああ・・・(そう言えばこの世界の召喚術ってよく知らないけど契約ってどうするんだろう?サモナイト石も無いみたいだけど)」 何故か赤面しているルイズを見てマグナがふとそんな疑問を考えているうちに、ルイズは詠唱をし、なんと顔を近づけてきた! (こ、これはひょっとしてキスが契約なのか!?) マグナが飛び退き、ハサハがキスをしようとしてたルイズを止める、見事な連携を見せた。 「ちょ、ちょっと何するのよ!?契約とは言え・・・私のファーストキスがそんなに不服なわけ!?」 もちろんこれにはルイズも怒り出す。数年前のマグナだったらろくな言い訳もできなかっただろう。 だが今のマグナは昔の恋愛レベルKYロリコン!なマグナではない!数年間ハサハとイチャイチャし、苦楽を共にした立派な男だ! 「契約って今のが?でもほら、俺にはハサハって婚約者もいるし」 「おにいちゃんのおよめさんは・・・ハサハなの・・・!」 二人の返答にルイズも渋々納得する。そりゃ好きな相手以外とキスするのはいやだろう。 だがすぐに別の疑問が脳裏によぎる。 (この亜人の子がお嫁さん?でもって婚約者?え・・・ロリコン!?) 目の前の亜人の少女は服のせいでわかりにくいが、多分タバサ以上ルイズ以下程度の体型だろう。 ルイズは自分の体型や婚約者の事は棚上げして、目の前の男がロリコンの異常性癖者という認識を持った瞬間だった。 「あー、ミスタ・コルベール?コントラクト・サーヴァントには口にキスが必要なのか?せめて手とかには・・・」 そんなルイズの認識の変化も気づかずマグナは契約方法について聞いてくる。 何かと説明好きなキャラが定着しつつあるコルベールも、彼をロリコンでは・・・?と思っていたのだろう「え?あ?ロリk・・・じゃなくて、今なんて言いました?」と聞きなおすレベルだ。 「やれやれ、コルベールもまだまだじゃの・・・。基本は口じゃが・・・まぁ手でも頬でも構わんじゃろ。」 代わりにオールド・オスマンが答えた。 ルイズとしても目上でもない相手の手にキスすると言うのも不愉快だが、これならファーストキスとしてはカウントされないだろうと言う乙女らしい打算を持って了承した。 マグナと婚約していると言うハサハも、手だけならまだ許せると渋々ながら了承。 マグナ・クレスメントがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になりました。 ~幕間 ルイズの部屋~ 「うう、契約ってすごく痛いんだな・・・」 「おにいちゃん・・・大丈夫?いたいのいたいの~とんでけ~・・・」 「ハサハ、ありがとう。」 「おにいちゃんがいたいの・・・ハサハはいやだよ?」 「ああ、俺もハサハが辛いのは嫌だな。・・・ハサハは優しいな。」 「おにいちゃんも・・・やさしいよ?やさしくて、あったかい・・・」 ハサハはマグナに抱きつき、マグナもそれを優しく包み込む。 「はぁ・・・あんた達、主人と使い魔とは言え仮にも他人の部屋なんだから・・・イチャつくのも程々にしてよ・・・」 部屋の主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは召喚初日から使い魔カップルのイチャつきぶりにお腹一杯でした。 前ページゼロの調律者
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/177.html
×月⊿日 今日はサモン・サーヴァントの儀式が行われた。 キュルケは火竜山脈のサラマンダーを、タバサはとても大きい風竜を召喚した。 なのに私の召喚で出てきたのは紫色の液体が入った透明な筒だった。 あまりにも腹がたってついその筒を踏みつぶしてしまった。 これで留年決定ね… ⊿月×日 今日朝起きたら急にお腹が減った。 時計を見るとまだ深夜の三時、早く起きすぎた。 あまりにも腹が減っていたので部屋を出て食堂を目指して歩いていると先月モンモランシーが呼び出したカエルがピョコピョコ跳びながらこちらに近づいてきた。 私はそのカエルを見て『おいしそう』だと思った ここから先は覚えていないけど蛙の味は鶏肉の味とあんまり変わらなかった。 朝食の時はみんないつもよりたくさん食べていた。 お昼頃にモンモランシーが「私の使い魔がいなくなっちゃった」とか言って喚いていた。 ○月○日 今日はとても痛ましい事件を耳にしたわ 近くに屋敷を持っているモット伯が何者かに惨殺されたらしい。 殺し方はえげつなく体のあちこちを食いちぎられていたという。 最近街で殺人鬼がでるという噂も耳にした。 最近物騒になったわ… ⊿月⊿日 朝起きたら体のあちこちが痒かった。 腕をかきながら窓から外を見見てみるとヴェストリス広場の真ん中でカラスが群がっていた。 気になったので服を着て広場に着てみると何かを必死につついている。 すぐにその光景に恐怖した私は急いでトイレへとむかい胃の中にあった物を全てはき出した。 後でキュルケから聞いた話だと食べられたのはギューシュの使い魔だったらしい。 もうすでに体のあちこちが腐っていたとか。 ☆月★日 痒い痒い、からだのあちこちが痒い。 かきむしっている腕は赤くただれて血が出てる。 あまりにも痒すぎるので医務室に行くことにしたが医務室には鍵がかかっていた。 それに保健室の中から何かを食べる音がしていたから気味悪くなって部屋に戻った。 夜にはさらに痒くなり、かきむしっていると腕がそのままボキリととれてしまた いったいわたしのからだどうなて (●)月 ̄ー ̄日 かゆみなおったでもはらへた あまりもはらへたのできゅうじのむすめくた おいしかたです FVrD9/4iP!@! z はらへりもなおったかゆみもなおた でももっとたべたい そなところにたばさとであた たばさはわたしをみとにげだしたのでつつかまえてくった おいしかたです 月 日 かゆ うま 終劇
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3658.html
「僕の、勝ちだ」 少年はワルドに左手のデルフリンガーを突きつけた。 「ふ、ふふ、見事だ。まさか、平民の持つ銃ごときに倒されようとはな。遍在を全て一瞬 で撃ち抜くとは、見事としか言いようがない」 ワルドは少年の右手を見る。その手に握られていたのは、銃だ。 「ハルケギニアのフリント・ロック銃じゃないんだ。コルベール先生に作ってもらった、 僕の世界の銃。リボルバーさ」 少年が掲げる右手には、なるほど銃が握られている。だがそれは、パーカッションロッ ク式リボルバーだ。 ニューカッスル城の教会で、少年は見事ワルドに勝利したのだ。 「凄い・・・まさか、あんたがそんなに凄いヤツだったなんて・・・」 ルイズは驚きと感激を隠せない。 それもそうだろう。彼は、どう見てもただの、いや人並み以下の少年なのだから。 背は低い、顔はイマイチ、貧相で頭も悪そう。性格もダメダメの泣き虫。召喚したその 日からしばらく、ずっと泣きわめいて助けを求め続けていたのだから。 さすがのルイズも呆れかえって、もはや彼に何の期待もしなかった。その主人と使い魔 の哀れさと情けなさは、クラスメートもからかうのが気の毒になるほどだった。 召喚された次の日、ギーシュに言いがかりをかけられたら、即座に土下座して謝り倒し 許してもらったくらいだ。 だが、しばらくして彼は、泣くのをやめた。 少しずつ、本当に少しずつだが、新しい生活に溶け込もうとし始めた。 確かに根性無しの泣き虫だったが、それでも少年は必死に頑張った。 元々がダメダメなヤツだったので歩みは遅い。それでも彼なりに少しずつ前に進んだ。 武器屋で偶然手にしたインテリジェンスソードを友とした。 彼の世界の武器である、新型の銃をコルベールに作ってもらった。 ハルケギニアの知識を身につけ、どうにかルイズの共が出来るくらいにはなった。 そう、ルイズも少年自身も思っていた。 だが結果はどうだ? 彼はニューカッスル城の教会で、ルイズの危機を救ったのだ。 ルイズを害しようとしたワルドを倒したのだ。ワルドの遍在4体、その全てを一瞬で。 彼が銃を抜いた瞬間を、ワルドすら見切れなかった。 少年は、普段からは信じられない凛々しさでワルドを見下ろす。 「連射出来るだけじゃないよ。弾丸の形もドングリ型にしてもらったし、銃身の中には溝 も掘ってもらった。威力も命中精度も、ハルケギニアの骨董品とは桁違いだ」 「見事だ。私の負けだ・・・殺せ」 だが少年は、銃も剣も下ろした。 「無理だ。弾切れなんだ。剣も全然使えないから、君を殺せない。この場は引き分けにし て欲しい」 「そうか、ここはその言葉に甘えよう。さらばだ!」 ワルドは風の如く、教会を後にした。 「これで良かったのか?ホントは、弾丸が一発残ってたろうに」 デルフリンガーの言葉に、少年はしっかりと頷く。 「きっと、あの人とはいつか手を取り合えると思うんだ。さぁ、ルイズさん。帰ろう」 少年はルイズの手を取り、アルビオンを後にした。 ルイズは知らなかった。この少年が、貧相極まりない彼が、地球では高名なスナイパー である事を。無敵のガンマンである事を。 あらゆる困難に立ち向かう勇気と、たゆまぬ努力を併せ持つ、真の勇者である事を。 彼の永久に続く冒険は、まだ始まったばかり――― 劇場版野比のび太を召喚
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2280.html
トリステインの宮殿では、群議のため将軍や大臣達が集まっていた。 会議室では、二十名ほどの高官達が、巨大な楕円形のテーブルを囲み、いつとも終わらない会議を繰り広げている。 「アルビオンはどれほどの軍備があるというのだ、タルブ戦では両軍ともに多数の戦力を失ったが、アルビオンには長年にわたって培われた造船技術があると言うではないか」 将軍、ド・ポワテェの発言に、空軍の参謀らしき人物が挙手をした。 年の頃四十半ばであったが、苦労が多いのか髪の毛は頭頂部を中心にかなり薄くなっている。 「アルビオンからの亡命者と、捕虜の証言では、多くの平民技師が新式のカノン砲を鋳造していたとあります。 また旧体制への忠誠心が深かった技術者の多くは、粛正の名の下に多く処刑され、アルビオンの誇る造船技術は著しく低下していると推察します」 言い終わると同時に、今度は別の貴族が挙手をした、でっぷりと太った腹をさすりつつ、指名を受けると左右に伸びた細いひげを指で撫で、目を細めて話し出した。 「造船技術と竜騎兵の運用法則が張り子の虎では、アルビオンに行くだけ無駄でしょう」 その言葉を聞いてかんに障ったのか、今度は別の貴族が挙手を待たずに発言した。 「何を言うか、長く続いたアルビオンとトリステインの争いを治める機会なのだ、このまま成り上がりのゲルマニアや、無能王のガリアに見下されていて良いと思っているのか!」 「制空権を得たところで運用できる軍隊が無ければ何の意味もあるまい!」 「そもそもだ、女王陛下の近衛兵を名乗る、汚らわしい平民に、某国の殿下どのに対処せねば、アルビオンに勝ったとしても、我々貴族の権威が地に落ちるかもしれんのだぞ!」 「何を言うのだ、今はウェールズ皇太子殿下も利用せねばならん時期だ、大義名分を得ている今だからこそアルビオンに攻め込むべきだろう!」 「あなた方はアルビオンに出資するつもりか?」 「それは………!」 「そもそも………だろうが」 さて、そんな会議が始まってから一言も口を挟むことなく、じっと思案している男がいた。 ルイズの父、ヴァリエール公爵。 彼はゲルマニアとの国境(くにざかい)を領地にもち、その警備を任されている、そのため浮き足立つ大臣や将軍達とは違い、アルビオンに攻め込まなければならぬ理由など無かった。 しかし、ラグドリアン湖に住む水の精霊との約束がある。 ラグドリアン湖から戻ったカリーヌ・デジレは、水の精霊との約束について話した。 カトレアの治療のために必要な水の秘薬、それと引き替えに『アンドバリの指輪』を取り返すと約束したのだが、そもそも指輪を盗み出したのが『クロムウェル』と呼ばれていた人物なのが悩みの種だった。 神聖アルビオン共和国の皇帝、オリヴァー・クロムウェルは虚無を用いて死者をも蘇らせるという。 死んだはずのアルビオン魔法衛士が、ラ・ロシェール等アルビオンと交流のあった各地に飛び、共和国に逆らうレジスタンスの拠点を潰していったことは、ヴァリエール公爵の耳に入っている。 紛糾する会議を横目に、ヴァリエール公爵はじっと考え込む。 水の精霊の話によれば、クロムウェルを含めて二人以上の人間がラグドリアン湖に侵入している、それまで地方の一司教に過ぎなかったクロムウェルが、どうやって指輪の存在を知ったのだろうか。 借りに協力者が居たとして、一司教に過ぎぬクロムウェルの言葉を信じ、水の精霊の下から指輪を奪取できるなど、スクェアクラスのメイジだとしても難しいのではないだろうか。 それほどのメイジが無名だとも考えにくいのだ。 クロムウェルは実力のある何者かに援助されている、いや援助どころではない、むしろ何者かによって傀儡にされていると考えられるだろう。 だとしたら何者がクロムウェルを動かしたのか? 仮にゲルマニアが黒幕だったとしても、財力が持つとは考えにくい、その上捕虜の証言と比較しても、アルビオンのカノン砲技術はゲルマニアを上回っている。 ロマリアの宗教庁の可能性もある、新教徒弾圧の時風を作り出した前教皇の一派なら、自作自演のために戦火を広げるのもやむなしとするかもしれない。 ガリアは……いち早く中立の名乗りを上げ、国力の温存に努め、しかもきな臭い噂は一切存在しない、それがかえって怪しく、また底知れぬ恐ろしさがある。 ガリアの無能王が本当に無能だとしたら、なぜガリアは国家としてそれなりに安定しているのだろうか、権力を握った側近、傀儡と化した王権、無能を装い対立構造を浮き上がらせ緊張を保つ王……歴史から前例を挙げればきりがない。 ヴァリエール公爵は、20メイル以上の天井を見上げてふと考える、ゲルマニアとトリステインの連合軍がアルビオンに攻め込んだ場合、誰が背後を守るのだろうか、引退した自分が考えても意味はないかもしれないが、 軍人として、また戦略家としての自分が、どうしてもそこに思考を傾けてしまう。 「ラ・ヴァリエール公爵、何か言うことは無いのですか」 形だけの議長役を仰せつかった大臣が、公爵の名を呼んで発言を促す。 ふと見れば、高級貴族達は訝しげに公爵の顔を見ている、将軍などは明らかに敵意を持った目で睨み付けているが、これはタルブ戦で兵を出さずに金だけを出したヴァリエールをまだ非難しているのだろう。 周りが注目する中、公爵はわざとらしく小さな咳払いをして、挙手した。 腹の内は決まっている、いや決められてしまったと言うべきだろうか。 そもそもカリーヌが王宮を訪れた際に、女王陛下と非公式の会談が設けられた、その時点でカリーヌは『烈風カリン』の名を用いて、ヴァリエール家がこの度の戦にも参戦しないで済む約束を取り付けてしまったのだから。 「……ヴァリエール家は国境の警備に尽力する」 どよどよと周囲から声が上がる、一部からは怖じ気づいたのかと囁く声も聞こえたが、それを無視してヴァリエール公爵は言葉を続けた。 「決してこの戦を軽んじているわけではない。皆の注意がアルビオンに向いている今、ガリアにレコン・キスタの一派があったとしたらトリステインは甚大な被害を被る、故に国内の治安維持に尽力せねばならん」 そこで別の貴族が机を叩き、叫んだ。 「前回も同じことを申したではありませんか!トリステインだけではない、相手は虚無を騙り死者を操る、邪悪な教団ですぞ!始祖ブリミルから連綿と続く王権の、根底を揺るがす大事件ですぞ!そこに兵す「代わりに烈風カリンが参戦する」ら出さ………」 重々しい一言が、会議の場を静寂で満たした。しかしそれも数秒のことで、すぐに貴族達は浮き足だった声を上げ、公爵の言葉を反芻した。 「れ、烈風カリンとは、まことですか!」 「貴公はあの生ける伝説がどこに行ったか知っているのですか、いや、まさかヴァリエール領の者で!?」 「噂では一騎当千と聞くが、本当にそんなメイジがいるものなのか…」 騒然とした会議室の中で、ヴァリエール公爵は両手を胸の前で組み、椅子の背もたれに体を預けた。 一人の貴族が、公爵に問いかける。 「公爵、今の話は本当ですか」 公爵はゆっくりと、しかし力強く頷いた、その表情にはどこか諦念のような笑みが浮かんでいた。 □■□■ 夜にさしかかった頃、アンリエッタ、マザリーニ、そしてアニエスの三名が謁見の間で非公式の会談に臨んでいた。 本来ならこの場にウェールズにも居て欲しかったのだが、残念ながら自由を著しく制限されている状態であり、会談に臨むことはできない、その代わりアニエスがメッセンジャーとしてウェールズからの手紙を預かり、アンリエッタに渡している。 それは皮肉にも、劇的なタルブ戦争の戦果と、リッシュモン高等法院長の汚職発覚に原因があった。 これには『仮面の騎士』として活躍したルイズだけでなく、情報収集に奔走したアニエス達銃士隊の活躍が大きい。 しかし、銃士隊の活躍を知らぬ貴族は多く、また知っていたとしても平民の部隊を認めない者が、やり場のないやっかみをウェールズ皇太子に向けた。 曰く『ウェールズ皇太子は鳥の骨と癒着し、トリステインを乗っ取るつもりではないか』と…… この噂をアニエス経由で耳にしたアンリエッタは顔を青ざめさせた、その上ウェールズが自から幽閉同然の扱いを受け混乱を避けようとを申し出たので、一時期はアンリエッタが取り乱してしまい、ウェールズは愛しい従姉妹をなだめるのに苦労したという。 アニエスは、宮殿の一角に設けられたウェールズの執務室から手紙を運ぶという、メッセンジャーボーイのような役割を仰せつかっている、それはアンリエッタの信頼故なのだが、事情を知らぬ貴族達は「粉ひき娘がペーパーボーイになった」と嘲笑った。 衛兵すらも下がらせた謁見の間で、ウェールズの手紙を開き、アンリエッタがその中身を確認する。 アンリエッタが手紙を読み終わると、アニエスに手紙を渡し、今度はマザリーニに手紙を開かせた。 「マザリーニ、どう見ますか?」 読み終わった頃に、アンリエッタが問いかけると、マザリーニは一つ礼をしてから答えはじめた。 「ワルド子爵からの報告では、かなりの数の傭兵が集められたようですが、その多くはロンディニウムに集められただけで、実際の運用には至っていないとあります」 そこで、一区切りし、ウェールズの手紙をアニエスに渡した。 「しかしウェールズ皇太子はこれについて、『役に立つ傭兵』と『捨て駒』を分ける段階ではないかと推察しております。またアルビオン北部にはオーク鬼などの亜人種が生息しており、ニューカッスルの攻防戦では幾度と無く亜人による襲撃もあったとあります」 「亜人ですか?」 アンリエッタが聞き返す、するとマザリーニはアニエスに発言を促した。 「……畏れながら申し上げます。トリステインでは、オーク鬼は人々に害をなす凶悪な亜人として知られています。しかしアルビオンの北部と、ゲルマニアの南東部にはかなりの亜人種が存在しております。 知能が高く腕力の強い者が群れのリーダーとなり、亜人どもは殺戮を楽しむために効果的な場所…つまり戦場へと積極的に力を貸すのです」 「……そのようなことが、あるのですか」 アンリエッタはそう呟くと、ふぅとため息をつく。 定期的にオーク鬼やトロル鬼を討伐したという報告が上ってくるが、漠然としたイメージでしか捉えていなかった。 傭兵代わりに運用されるほど知能が高く、こうかつな存在だとは思いもしなかったのだ。 マザリーニはそれにもかまわず言葉を続ける。 「陛下、これらの情報はウェールズ皇太子名義の手紙で、ド・ポワチェ将軍に送ることに致します」 「マザリーニから送っては駄目なの?」 「反感を買うでしょう。……このような言い方は不本意ですが、議会の大部分は小心者です。ウェールズ皇太子殿下は優秀ですが、優秀が過ぎてもいけないのです。ですから交換条件として戦後の援助を期待したいと、懇願する形で手紙を出すのです」 「それでは、ウェールズ様があまりにも…!」 哀れではありませんか、と続けようとしたアンリエッタを、マザリーニが遮った。 「暗殺の危険を避けるためです。皇太子殿下には『小心者』の皮を被って頂かなければならないのです。ここトリステインで殿下のカリスマが発揮されてしまえば、それは内乱に繋がるかもしれないのですぞ!」 アンリエッタの体がびくりと震えた、内乱についてはよく歴史の教育から学んでいた、内乱には首謀者と、祭り上げられた首謀者がいると。 もしアンリエッタの目の届かない所で根回しが行われ、ウェールズを反乱の首謀者に祭り上げられてしまえば、真実はどのような形であれ、ウェールズに会えなくなってしまうかもしれない。 また、ウェールズがアンリエッタ側だと主張するにも、タルブ村での戦果だけでは物足りないと主張する貴族もいるのだから、マザリーニが慎重に慎重を重ねる気持ちも理解できた。 「…わかりました。ですが、殿下への配慮もくれぐれも怠らぬように」 「はい」 会話が途切れたところで、アニエスが呟いた。 「畏れながら、陛下に上申したい事柄がございます」 アンリエッタはアニエスに視線を向け「申しなさい」と呟く。 「はっ。クロムウェルは、各地に死兵(ゾンビ)を使わせております。死兵はそれこそ体が滅びるまで動きを止めません。…今まではレジスタンス狩りという形で用いられていましたが、これがもし、暗殺や、人質、籠城といった形で用いられた場合、あまりにも脅威です」 「その懸念はマザリーニから話がありました。…少し早くなりましたが、アニエスにも申しておくべきでしたね。マザリーニ、説明を」 こほん、とマザリーニが咳払いをし、アニエスに視線を向けた。 「人質として狙われる確率が最も高いのは、兵役に出た教師や男子生徒の居ない魔法学院だ。アニエスにはその件を魔法学院の学院長に伝えて貰おうと思っていた」 「では、私は伝令を?」 「それだけではない、魔法学院に残った生徒達に訓練を施して貰いたいのだ。こう言っては何だが……下手に正規の軍を派遣するよりも、傭兵相手に慢心せぬ銃士隊に任せるべきかと思ってな」 アニエスは、眉間に力が入るのがわかった。 『傭兵相手に慢心せぬ銃士隊』…逆説を述べれば、正規の軍では卑劣な手段に太刀打ちできないと言っているようなものだ。 銃士隊設立以来、もっとも重要で、困難な任務になるかもしれない、そう思うと不機嫌さよりも、体の奥底から熱いものがわき上がってくる気がした。 アニエスは、跪いて深々と頭を垂れた。 翌朝、ワルドはウエストウッドの一室でぐぅぐぅと寝息を立てていた。 ラ・ロシェールまで遍在を飛ばし、駐屯しているトリステイン軍の人間にアルビオンでの調査結果を報告して、その場で遍在を消去する。 風のスクェア、それも遍在に特化しているワルドだからこそできる芸当だが、さすがにラ・ロシェールに遍在を飛ばすのは辛いらしい。 「なんだい、まだ寝てんのか」 キィ、と音を立てて扉が開かれ、ワルドの寝る部屋に入ってきたのは、マチルダだった。 寝息を立てているのを確認すると、壁に立てかけられたデルフリンガーを持ち上げて、音を立てずに部屋を出てた。 廊下に出たマチルダは、心配そうな表情のティファニアが、ワルドの部屋をちらちらと見ているのを見つけた。 「マチルダ姉さん、ワルドさんは?」 「疲れ果てて寝てるよ、まあ昼には起きるだろうさ」 「そうなんだ…大丈夫かな」 「心配することじゃないよ、あいつは人の裏をかくことばかりしてたんだから、いい気味さ」 「もう、姉さんったら……とりあえず子供達にもワルドさんを邪魔しないように伝えておくね」 「それがいいね」 朝食後、マチルダは自分の部屋に戻ると、デルフリンガーを鞘から3サントほど抜いた状態にしてテーブルの上に置いた。 「デルフ、昨日、報告のついでに変な男に気づかれたかもしれないって言ってたじゃないか、そいつについて詳しく分からないかい?」 『詳しくは分からねえよ、昨日喋った通り、ルイズの嬢ちゃんが言ってた容姿ぐらいしか分からねえ』 「…そっか、今日の昼ごろ、協力者が来るんだけど、そいつにも聞いてみようかと思ったんだけどねえ」 『そっちは何か、心当たりでもあるのか?』 「火を操る凄腕の傭兵が居るって聞いたことがあるのさ、容姿も似てるし、もしかしたら本人かもしれないしね。まあ調べておいて損はないだろうさ」 『聞くのは結構だけどよ、調べさせるのは止した方がいいぜ。ルイズの嬢ちゃんは400メイルは離れた場所で、廃屋に隠れて見てたんだ。それなのに見られたってのは偶然じゃねえと思うよ』 「風系統の『遠見』かい?」 『いや、もっと漠然としたもんだと思うぜ、姿形を認識たわけじゃねーだろ。たぶん、やたら勘が鋭いとか、他人の視線に敏感とか、そんなやつだ』 「……ワルドとは違う意味で厄介だね。まあ、姿形を変えられるルイズの方が、いざって時に逃げられるだろうけど…」 『でもなあ、なんかいやな予感がするんだよなあ…』 「いやな予感って何だい?あたしゃあの嬢ちゃんが誰かに殺されるなんて想像できないけどねえ」 『…殺される予感じゃねえんだ。その逆だよ』 デルフリンガーの呟きに、マチルダは答えなかった。 時刻は少しさかのぼる。 ロンディニウムの大通りから、かろうじて幅2メイル程の裏通りに入ると、数件の酒場があった。 更にその奥へと進むと、二階建ての小さな家が建ち並んでいる、トリステインの大通りと比べると一回り小さく屋根も低い、アルビオンの平均よりやや貧しい家々だと言える。 そのうち一つ、何の変哲もない建物の二階に、ルイズがいた。 「ふぅ…」 「坊やかと思うはずよ、すごく筋張った腕じゃない、それなのに肌は綺麗なんてずるいわ」 ルイズが鎧を脱ぎ、肌を顕わにすると、それを横目で見ていた別の女性が諦念を含んだ声で呟いた。 ベッドの上に座り、胸を顕わにしたベビードールに身を包んだその女性は名をアネリといい、男を相手する娼婦であったが、ルイズを男だと思いこんで誘ってしまった。 しかし、ルイズもごろつき数人から追われていたので、なりふり構っていられないとばかりに誘いに乗ったのだった。 アネリは、ルイズから渡された一枚の金貨を掌でもてあそぶと、にやりと笑みを浮かべた。 「筋張ってる…そうね、まあ否定はしないわよ。これでも力には自信ないんだけど」 鎖帷子を床に置いて、自分の腕を見る。 吸血馬の力を借りることで、余分な脂肪の一切無い鍛えられた体をしているが、吸血馬のパワーと比べて劣っているようにしか思えなかった。 「そりゃそうよ、男と比べたら、女の細腕なんて弱いもの」 その辺の有象無象と比較しているアネリの台詞に、ルイズは苦笑しつつベッドへと腰掛けた。 「さっきの奴ら、裏通りから手を伸ばして私の腕を掴んだのよ、そのまま引きずり込もうとしたから脇腹を殴ってやったんだけど。この町ってあんな奴らばかりなの?」 ルイズの言葉に、アネリが苦笑しつつ答える。 「そんな連中が増えたのはつい最近さ、レコン・キスタが入り込んでから、傭兵崩れがドッと増えたのさ、お宝が沢山割り振られたとかでね。あたしも稼がせて貰ったよ。」 「ふぅん…じゃあ、レコン・キスタがくる前は?」 「ああ、そうだね、その頃は堂々と客引きもできなかったよ、前の王様はそりゃぁ厳しかったからね、家もなきゃ親もないあたしらが生きるには苦しかったさ」 「……そう」 ルイズは一言だけ呟いて、座ったまま背伸びをして、どすんとベッドに倒れ込んだ。 それを見てアネリはふふんと笑い、ルイズの髪の毛に手を伸ばした。 「あんたもワケありって顔してるね。けっこう数こなしてるんでしょ?」 「そう見える?」 数をこなしてる、という言葉が気になってルイズは顔を向けた。 「なんとなくね。だってさ、肝が据わってるって言うか、荒事に慣れてるみたいだもの、」 「大したことはしてないわよ。露払いぐらいしかね」 自嘲気味にルイズが答えると、アネリはわざとらしく肩をすくませて「おお、怖い怖い」と呟いた。 「ワインでも取ってくるわね」 「別にそこまでしなくてもいいわよ」 「あたしも飲むのよ、まあここで待ってなさいって」 アネリがそう言って一階に下りていくと、ルイズはううぅんと大きく息を吸い込んで、体を大の字に広げた。 「……一人ってのも、久しぶりね」 ルイズはふと、アルビオンに始めて来たときのことを思い出した。 姉のエレオノール、母カリーヌ、父ヴァリエール、そしてお供が何人か…十人だったか十五人だっただろうか、あの頃は何も知らなかった。 なぜカトレア姉様が来られないのか、なぜカトレア姉様だけがヴァリエール領で一人寂しく待っていなければならないのか、それが分からずに駄々をこねた覚えがある。 でも、今はそれ以上に強い思い出がこの地にあった。 ブルート、ブルリンなんてあだ名で呼ばれていた、義理堅くてどこか抜けている男。 ニューカッスルの攻防戦でワルドを退けた後、彼は『ニューヨークだ!』と言って光るゲートの向こうに行ってしまった。 使い間を召還するときにしか出現しないあのゲートを通って、いったい、彼はどんなところに行ってしまったのだろうか?いや、帰っていったのだろうか…… その後すぐ現れた吸血馬には、いきなり襲われ、食われた。 必死の抵抗を試みて脳をかき回し、肉片を埋め込んだことで従順になったが……よく考えてみれば、生命力で勝るあの吸血馬が、ルイズの肉片ごときで制御下に置けるとは思えない。 タルブ戦で、エクスプロージョンを放った時のことを、デルフリンガー『吸血馬は”自分の意志で”身を挺して嬢ちゃんを庇ったんだぜ』と話していた。 吸血馬は、自分の意志で守ってくれたのだろうか…? だとしたら私は、とても罪深いことをしてしまったのかもしれない。 吸血馬が自分の意志で好意を抱いてくれていたのか、それとも洗脳によるものなのか、確かめるチャンスは永遠に失われてしまった。 ルイズはベッドに寝そべったまま、吸血馬の骨が埋まっている手首を見た。 掌を開いて、握りしめ、開いて握りしめると、ミシミシと筋肉の緊張する音が聞こえてくる、それは筋肉と言うより、糸状になった鋼の強度を誇る。 一呼吸置いてルイズは、いとおしそうに手首にキスをした。 「ほら。ワイン持ってきたよ」 しばらくすると、アネリが扉を開けて部屋へと入ってきた。 ボロボロのバスケットに、ワインの入ったピッチャー一つとグラスを二つ入れている。 それをベッド脇のテーブルに置くと、慣れた手つきでグラスにワインを注いでルイズに渡した。 ルイズは体を起こしてグラスを受け取ると、グラスの表面をじっと見つめた、上から見るとほんの少しいびつな六角形をしており、透明度は高いが反射は均一ではない、歪みか、それとも汚れが原因なのか……ともかく硝子の安物のグラスであることには間違いはなかった。 「…ん」 くいと一口口に含んで、飲み込むと、独特の酸味と苦み、そして後付けされた甘みが口の中に広がった。 「すごい甘みね」 「ああ、ちょっと良いヤツを分けて貰ったんだ、わかるかい? 金貨なんて貰っちゃったからねえ、サービスだよ」 ちょっと良いヤツ、と言われてルイズは苦笑した。 公爵家で育ったルイズには、どう考えてもこのワインが良い物だとは思えない、魅惑の妖精亭でもこのレベルのワインは出さなかったはずだ。 それでも、このアネリと名乗る娼婦なりの心遣いなのだろうと思うと、ルイズは嬉くなった。 「ええ、悪くないわ」 空になったグラスを手で弄び、横目でアネリを見て、ルイズは笑みを浮かべた。 それがまるで流し目のようで……不思議な魅力に驚いたアネリは目をぱちくりとさせた。 「ねえ、あんた……」 ずい、とアネリが近寄る。 「…何」 「こうして見るとさ、あんたの目つきとか、気になっちゃうんだよ。……あたしもその気になるとは思ってなかったんだけどさあ、あんた意外と良いね」 「?」 何の話をされているのか分からないルイズは、押し倒そうとするアネリに逆らわなかった。 「ね、いいだろ?これも経験だと思ってさ」 喋りながらも手慣れた手つきでルイズの服を脱がしていく、ルイズは抵抗しようかと思ったが、今更恥ずかしがることも無いかと思い、されるがままになっていた。 シャツを脱がされ、胸から首筋へと啄むように何度もキスをされる、ルイズはこそばゆい感触に慣れず、眉間に皺を寄せたが、すぐに”そういうものだ”と思って慣れることにした。 ズボンを脱がされて、股間に手が伸びると…ふと、今は懐かしきヴァリエール家の浴室を思い出した。 幼い頃、まだ物心付いて間もないころだ、入浴の時は侍女が体を洗ってくれていた。 すぐに自分で身だしなみを整えるようにも教育されたが、その頃と今と何か似ている気がする。 ”されるがまま”だったルイズは、未知の感覚を覚えようと、目を閉じて積極的に身を任せた。 「う…」 アネリの指がデリケートな箇所に触れると、現れるときとは違う、波打つような指の動きに思わず声を漏らした。 もし自分が男だったら、こんな時はどう対処していたであろうか、そんなことを考えていると不意にこの娼婦の相手をしたくなった。 こんな経験も、たまにはいいか……そう考えて目を開けると。 「え?」 アネリの左手はルイズを撫でたままで……しかしその右手はナイフを握りしめていた。 どすっ、といやな音が体の中に響く、勢いよく突き立てられたナイフは、筋肉を確かめるように愛撫された肋骨の隙間へと易々と吸い込まれていく。 ずぶぶぶっ、と体重を乗せられたナイフが突き刺さると、左の手で枕を取り、ルイズの顔に押しつけた。 「入っといで!」 その声に合わせて、一階の方からどやどやと数人の声が聞こえてきた、枕で視界を遮られていても、ルイズの耳は人数と体格を正確に聞き分ける。 「おお、やったか!」 男、身長180サント程、かなりの筋肉質で体重もある。 「もったいねえなあ。いい女だと思ったのに」 男、身長190サント弱、筋肉質。 「何言ってやがる、こいつ、俺を殴りやがったんだぞ、俺が殺してぇぐらいだ」 男、身長175サント程、筋肉も多いが脂肪も多い。数時間前に殴り倒したヤツ。 足音と声から人数と特徴を推察している間にも、部屋に入ってきた男達はルイズの荷物を物色し始めた。 「ひゃァ!こりゃたまんねえ。金貨だぜ。二十枚はあるぜ」 「こいつはどこかの坊ちゃんだったのか?」 「どこからか盗んできたんだろうぜ、女は怖いからな!」 「ちげぇねえ!ははは!」 「それにしても、ジョン、あんたらがこんな女にナメられるなんて驚いたよ、ヤキが回ったかい?」 「それを言うなよアネリ、この女ぁ一度や二度は傭兵でもやってたんだろ、上手い具合に蹴飛ばされちまったよ」 「はン、油断してんのが悪いのさ。あたしなんてグラスにしびれ薬を入れて、ナイフで一突きよ、どうだい?手慣れたもんだろ?」 「おお怖ぇなあ!俺は絶対おめえを買わねえぞ、殺されちゃたまんねえからな」 「何言ってるんだい、このやり方を教えてくれたのはあんただろ?あんたがあたしを買うときは見張りまで混ぜるじゃないか」 「ハハハ!」 「ああ、なぁんだ、グルだったの」 To Be Continued→ 65< 目次 67
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1976.html
back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 「困ったわねぇ」紅いドレスの人形がつぶやいた 「困ったなぁ」眼鏡の少年がため息をついた 「あたしだって困ってるのよ」ブロンドの少女がぼやいた 二人の戦いで吹っ飛ばされて気絶したジュンは、ルイズの部屋に運ばれていた 日も暮れた頃、ようやくお互いの事情を語り始めることができた 三人でテーブルを囲み、どうにかこうにか語り合った ジュンと真紅は地球の事、ローゼンメイデンの事、アリスゲームの事、ジュンが真紅のミーディアムである事、nのフィールドを通過して帰宅している途中にハルケギニアへ来てしまった事、etcを話した。 ルイズはハルケギニアの事、トリステイン魔法学院の学生である事、春の使い魔召喚中であった事、サモン・サーヴァントによって彼らが召喚された事、コントラクト・サーヴァントによってジュンが使い魔にされてしまった事、etcを話した。 そう、今ジュンは、真紅と翠星石のミーディアムである上に、ルイズの使い魔でもあるのだ。それが証拠にジュンの左手の甲にはルーンが、左薬指には薔薇をあしらった巨大な指輪がある。 「それで僕は、どうすればいいんだ?」 左手をじっと見つめながらジュンが何度もつぶやいた。ここぞと言わんばかりにルイズが立ち上がり、ジュンを指さして高らかに宣言した。 「使い魔として当然!あたしに仕えてもらうわよ!!」 「無理ね」 真紅が紅茶を飲みながら、しれっと口を挟んだ。体に似合わぬ大きさのティーカップを両手で持ち上げながら 「無理ってどういう事よ!?使い魔のクセに主人に逆らう気?」 「ああまったく飲みにくいったらないわ」 真紅は優雅に?カップを更に戻した。人間用のイスにちょこんと座る真紅の姿に、ルイズは密かに (あぁ、なんてくぁわいいのかしらぁ。これであの口の悪さがなければねぇ) と思っていた。 「答えなさいよ、なんで主人の命令が聞けないって言うの!?」 真紅はキッとルイズを睨み付け、淡々と語り出した。 「まず第一に、使い魔なのは私じゃなくてジュンよ」 「な、何いってんのよ!?あんた、その平民の人形なんでしょうが。 そしてその平民は私の使い魔なの。つまり、使い魔の所有物は主の所有物。 だから、あんたもあたしのモノなのよ!!」 「違うわ、私は私だわ。別にジュンが私を所有しているワケじゃないの。ただ契約をしているだけなの」 相変わらず真紅は淡々と語る。真紅は更に続ける 「それにあなた、使い魔とかなんとか言ってるけど、全然ジュンを支配出来ていないみたいね。 ジュン、この子の事をどう思う?何か、威圧されるとかある?」 問われたジュンは顔を上げ、ルイズをじぃっと見つめた 「うーん・・・確かに何か、ちょっと・・・」 「ジュン、ハッキリいってちょうだい」 「う~ん~、綺麗だなって」 ぱちーん 真紅の髪がムチの如くジュンの頬を打った ルイズは、綺麗だと言われ、ちょっと頬を朱く染めた 「そういう話をしているんじゃないわ。ジュン、他に何かないの?」 「いててて。いきなり何すんだよ、まったく えーっと、まぁ、ぶっちゃけ、別になんにもねぇ」 「そ!そんなバカな!ホントになんにもないの!?」 焦るルイズににじりよられ、ジュンはコクコクと頷いた。 真紅はルイズにニッコリ笑いかけた 「ルーンの魔力による精神支配、指輪で邪魔させてもらってるの」 うぐっ そんな擬音が聞こえそうなほど、ルイズは目に見えて動揺した それでも必死に胸を張って言い返した。 「ふ、ふん!何言ってるのよ、そんなの、これからゆっくり躾ければいいのよ。 なにしろあんた達はこの異世界に召喚された以上、あたしに頼らなきゃご飯も食べられないんだから!」 ふっふーん♪ そんな感じで余裕をみせるルイズだが、それでも真紅は微笑んでいた 「そうね。この世界で暮らすなら、あなたの使い魔をする事も受け入れる必要があるわ」 「なんだ、わかってるじゃなーい☆」 ルイズは更に鼻高々でふんぞり返った。 だが真紅は、そんなルイズにとって死刑宣告にも等しい一言を発した。 「でも私達、そろそろ帰らせてもらうわ」 「な``っっ!!」 ガタッバタンッ たじろいだルイズがイスを倒してしまった。 「な、ななな、なに無茶苦茶を言ってるのよ!? あんた、ひ、人の話をきいいてなかったっていううわけぇ!? いーい?あんた達はあ・た・し・が!召喚したの、このハルケギニアに! で、異世界へ送り返す呪文なんて、無いの! だから!あんた達は帰れないの!あたしの使い魔をやるしか」 「お帰りホーリエ、とても早かったわね。頑張ったのね」 真紅はルイズを無視して鏡台を見ていた。 鏡台は、何故か鏡面が淡く輝いていた。 そして、鏡面に波紋のような模様が広がると、中心から光の玉が飛び出した。 光の玉はジュンと真紅の間に来て、ふよふよと飛び回っていた。 「真紅、どうだった?」 「大丈夫よ、ジュン。スィドリームを見つけたって言ってるわ」 「よかったぁ♪これで帰れるな」 「でも、相当遠いみたいよ。ジュンの力を必要とするかもしれないわ」 「帰るためだからな、我慢するさ。遠慮無く使えよ」 と言ってジュンと真紅は立ち上がり、鏡に向かって歩き出した。 「ま、まま、待ちなさいよ!主ほったらかしてどこ行く気よ!?」 呼び止められてジュンが振り向き、頭を下げた。 「ルイズさん。お茶とお菓子、とっても美味しかったです。ありがとうございました。 少しだけど異世界観光も出来て、楽しかったです。 それでは僕達は、さっき話したnのフィールド経由で帰らせてもらいます。 ルイズさんは新しい使い魔を召喚して下さいね」 と言って再び鏡に向かっていった。 真紅もちょっとだけ振り向き 「さよなら。お茶はとっても美味しかったわ」 と言ってさっきの光球と共に、さっさと鏡の中に入っていった ルイズは唖然としていた。 幾たびの失敗の果てに、やっと召喚した使い魔が それも、平民の子供はともかく、子供に付き従う超レアものゴーレムが 魔法まで駆使する高度な知性と魔力を持った自律式自動人形が ファーストキスまで失ったのに さっさと異世界へ帰ろうとしている 「それでは失礼します」 と言って、ジュンも鏡に入ろうと手を「まちなさい-----いっっ!!」 ルイズが思いっきりジュンにタックルした! 「う!うぅわぁあ!何すんだよ!?は、はなせぇ!!」 「離すモンですか!!あたしの使い魔が、進級が!レアものがあぁ!!」 「だ、だから新しいのを召喚すれば良いだけって、う、うわ!ぅあああ!!!」 かたや渾身の力で、それこそ命がけの必死さで掴みかかるルイズ。 かたや長期間の引きこもり生活で、すっかり体がなまっていたジュン いくら学校への復帰を決意し、真紅や雛苺や翠星石との遊びに付き合わされて、 毎日激しくもみくちゃにされていたとはいえ、ジュンにはルイズを引きはがせず その結果 「ぅあ!うわあああああああああああああ!」 「ひぃ!きゃあああああああああああああ!」 二人とも、絡み合いながら鏡の中へ転落していった back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7308.html
前ページ次ページゼロと魔砲使い ロマリアを飛び立って二日後。途中再びオルレアン邸で一泊したルイズ達は、何事もなくトリステイン王宮へと到着した。 前回のことがあったためか、ルイズの顔を覚えていた門衛は、ルイズの要求通り直ちに上へのつなぎを取ってくれた。 シルフィードも今回は王宮内の厩舎で、たっぷりとお肉がもらえるのでご満悦である。 但し、タバサから念話で(しゃべったら実験動物として捕まる)と脅されているせいで、いまいち挙動におびえが見えていたりするが。 厩舎の世話係は、「大丈夫。怖がらなくてもいいよ~」と話しかけてくれるものの、その優しさについ話しかけそうになるのを押さえるのに必死と、あまりにもぐだぐだな悪循環があったりするのだがそれは別の話。まあタバサが付いていられたので、実際には何も無かったのだが。 そしてルイズとなのはは、再びこの国の三巨頭、マリアンヌ大后、マザリーニ枢機卿、アンリエッタ王女の三人と対面していた。 「ご苦労であったな、ミス・ヴァリエール。して、首尾の方は」 「恐れ多くも、今回の件についての、返答の書状を預かって参りました」 教皇からの手紙を差し出すルイズ。この場ではもっとも上席となるマリアンヌが、丁寧に手紙を開き、内容に目を通す。 その瞬間、思わず体がぐらりとなるが、何とかそれを立て直すと、幾分震える手でその書状をマザリーニに手渡した。 その様子から予測が付いたのか、枢機卿の顔色に変化はない。しかし、読み進めるほどに鋭くなるその瞳が、事態の重さを物語っていた。 「これは……少々掃除を早める必要がありますな」 「どういうことですか?」 ただ一人事情のわからないアンリエッタが、マザリーニに問い掛ける。 「教皇聖下は、アルビオンの戦いに、我々の側の味方として立っていただけるとのことです。それも直接」 「本当ですか! でも……直接?」 喜びを表明したものの、今ひとつうれしくなさそうなマザリーニに、アンリエッタはその原因が『直接』と言うところにありそうだと思い、彼に問い返す。 「ええ……聖下は直接、その御身を持って戦場に立ち、ミス・ヴァリエールの『虚無』が間違いなく正当であり、また、クロムウェルが名乗る虚無が偽りであると、自らの名にかけて示すというのです」 「え……」 さすがにアンリエッタの顔が蒼白になった。それは事実上、聖下ともあろうお方が、戦場の最前線に立つことを意味する。 そうなるとそれを守らねばならないアルビオン=トリステイン同盟軍の責任は重大どころではない。髪の毛一筋の傷でも聖下につけようものなら立場はない。 「それに当たって、準備や時期あわせのため、聖下はお忍びで我が国を訪問するそうです」 とんでもない追い打ちが来た。 「それは……大変な名誉ですね」 そう返すので一杯になっている。 「ええ。まあ、お忍びでもありますし、お迎えの準備の方は、むしろ質素かつ厳粛なものであるべきです。元々今の聖下は派手な浪費を嫌いますからね」 だが、とマザリーニは言葉を続ける。 「逆に訪問の事実は厳重に秘匿しなければなりません。いろいろな意味でこの事実が漏れると問題が起きます」 そういって彼はその問題点を列挙する。 一つはロマリアとの関係。聖下はこっそり抜け出してくる気らしいので、ばれるのは国際問題になる。 続いてアルビオンとの関係。レコンキスタと繋がりのある人物に漏れたら言わずもがなである。 それに加えて、刺客の心配などもしなければならなくなる。 そう考えた場合、この場合の最善手は。 「少々強引な手を打ってでも、内部意思を統一しなければなりませんね。たとえ官僚の半数を誅殺することになろうとも」 その目は真剣で、ルイズといえども肌寒さを覚えるほどであった。 その彼がルイズの方を見つめる。 「場合によっては、あなたに一肌脱いでもらう必要があるかも知れません」 「は?」 「いえ、何せこの国に巣食う毒虫は隠れるのが上手ですので。少々強力な薬を使わねばならないかも知れません」 さすがに経験の差、ルイズにはマザリーニのいっていることがよく判らなかった。ちらりと後ろのなのはの方を見ると、何とも微妙な顔になっている。なのはにもはっきりとした確信はないのね、とルイズは思った。 こういう場合はどうしたらいいのか。ルイズは、 「マザリーニ様には何か策があるみたいですね。私に出来うることならば何なりとお命じください」 丸投げした。この時ルイズが考えていたことを言葉にすれば、餅は餅屋である。 「特別に頼みたいことは今のところありませんよ。まあ、せいぜい囮ですな。一番いいのはあなたが次期国王として戴冠するという情報なのですが、これはあなたの虚無と表裏一体なので今回は使えませんし」 「当然ですね」 ルイズも頷く。マザリーニはそんなルイズを、頼もしそうに見つめて言った。 「今しばらくは英気を養っておきなさい。その時が来たら、あなたの背中にはこのトリステインとアルビオン、加えてロマリアの一部まで加えた、途方もない重圧がその背にかかることになりますから」 「はい」 力強く答えるルイズ。その様子を見たマザリーニは、大事なことを忘れていたことに気がついた。 「そうそう、うっかりしていました。ミス・ヴァリエール。あなたに一つ大事な使命を与えましょう」 「なんでしょうか」 ルイズはちょっといぶかしげに思った。今の言い方からすると、これから言われる任務は、今思いついたように聞こえる。枢機卿の性格とやり方からすると、こういう思いつきで何かをさせる人物とは思えない。 だが聞いてみれば何ということはなかった。 「あなたに関することをヴァリエール公爵に伝えて、あなたをある意味利用し尽くすことをお伝えするのを忘れていました。 ミス・ヴァリエール、ちょうどいい機会でしょうから、里帰りして今までのことを説明すると同時に、参戦許可をもらってきなさい。あなたにしても心を決める時は必要でしょう」 そしてルイズとなのはは、馬車に揺られてルイズの故郷たる、ラ・ヴァリエール領へと向かうことになった。 今まで移動する時は馬かシルフィードの背中だったことが殆どなので、こうして乗り物に乗るのはどちらにとっても久しぶりのことであった。 幸い、実家までの道行きはそれほどかかるものではない。おまけに今回は御者や護衛、使用人まで付いている。到着まで二人は何もすることがなかった。 「考えてみると、ここしばらく、ものすごい勢いだったのね、私たち」 「私はもう少し余裕ありますけど」 訓練業務の間に高レベル魔導師として何かと用事が挟まる上、ワーカーホリック気味のなのはにとって見ればこの程度のことなど忙しい内には入らない。 だが魔法はあれど産業革命も情報革命もない上、実家が裕福である世界にいたルイズからすれば、なのは召喚以降の人生はまさに疾風怒濤であったといえよう。 ほんの一、二ヶ月のことなのに、まさに自分の人生が一変してしまっている。 「ねえ、なのは」 「どうしました? ご主人様」 「考えてみると、あなたと出会ってから、まだ大して時間経ってないのよね」 「ええ、そうですね」 ルイズはゆっくりと流れる景色に目をやりながら言葉を続ける。 「それなのに、あなたと出会ってからの方が、それ以前より長く生きているみたいな気がするわ」 なのははそれには答えなかった。 「……いずれあなたは私の元を去る。私にはあなたをあの子から離す権利なんかないわ。でも、お願い」 外を見たまま、ルイズは続ける。 「今回の戦いが終わるまでは、一緒にいてほしいの。叶うなら、もっとずっといてほしいけど、それは私のわがまま。でもね……この戦いが終わるまでは」 「帰りませんよ」 ルイズの言葉は、なのはによって遮られた。 「もちろん、選択の余地があれば、ですけど。それでも……もし、戦いのさなかにあの子かあなたを選べと言われたら……私は多分、あなたを選びます。決着が付いた後なら、あの子を選ぶとは思いますけど」 そしてそこで言葉を切るなのは。ルイズは振り向きもせず、外を見つめている。 そんなルイズの背後から、なのはの声がふわりとかぶさる。 「そしてそれが……唯一無二の機会だったとしても、です」 「……!」 言葉はなかった。いや、出なかった。 振り向きざまルイズは、なのはの胸に顔を埋めた。 「……本当のことを言うと、怖い……何もかもみんな。どうしていいかなんて、判んない。でも……あなたがいてくれれば、きっと乗り越えられる」 「……使い魔というのは、きっとそういう存在が選ばれるんですね」 掛けられる、あまりにも心に優しい言葉。だがルイズは、その内容とは裏腹の感じを、今のなのはから受け取っていた。 その違和感が、ルイズの心をしゃっきりとさせる。埋めていた顔を上げ、そらしていたなのはの方を見る。 そこにあったのは、予想通りというか予想外というか……静かな顔をしたなのは。 だがその静けさは、『静かな怒り』と表現されるようなのものであった。 喜びも恐怖も、全てが吹き飛ぶ、そういうたぐいのものだ。 現にルイズの心からは、そういった感情の何もかもが、まるで夢であったかのように抜け落ちてしまった。 ルイズは思う。もし、この怒りが向けられる対象が自分であったら。 おそらくは蛇に射すくめられる蛙のように、身動き一つ出来なることは間違いない。そしてそのまま、抵抗することすら思いつくことも出来ないままに呑み込まれてしまうのだ。 ルイズにははっきりとそれが判った。だが、それが『何故』かなのは判らなかった。 「ねえなのは、あなた、何に怒りを向けてるの?」 そう聞いたルイズに、なのはは何も答えなかった。いや、正確には直接答えなかった。 「人生、こんな筈じゃなかったことばかり。親友のお兄さんが言った言葉なんですけど」 静かな怒りが解け、ふっと優しい顔になるなのは。 「そしてメイジと使い魔、それは運命にも近い契り。そう『なるべき』存在なんですよ」 ルイズは少し混乱した。言葉の前後のつながりに、脈絡がまるで無い。それゆえ、なのはの言葉にあった、わずかな変化……『なるべき』の部分に、不自然に籠もっていた強調に気づかなかった。 「何言ってるの?」 「判らなくてもいいんですよ。というか、判っちゃいけないことなのかも」 そういうなのはの顔は、優しいものから哀しいものへと変わり、そして再びあの静かな怒りを湛えたものに戻る。 「そう、世間って、世界って」 そこで今度はなのはがルイズから視線を外し、外を見た。 それはルイズの目を見るのがつらかったのか、それとも外の『世界』を見たかったのか。 「こんな筈じゃなかったことばかり、なんです」 ルイズには判らなかったが、なのはがその言葉の意味する何かに怒っている。それだけは理解できた。 ルイズの知ることの出来なかった怒り。それは彼女の左手から発せられていたもののせいだった。ルイズの問いに対して心の揺れたなのは。彼女とて木石ではない。その問いには大いに悩むものがあった。 一応優先順位ははっきりしている。周囲の環境、お互いの大切な人を支えてくれる周囲の人物。この場合なのは自身の嗜好は優先順位が低い。職業病的な、任務優先、効率優先の思考だ。 だが、もしその選択が、ぎりぎりの状況で、かつ一度きりのものなら。 反射的にルイズを捨ててヴィヴィオを選んでしまう自分の存在も、彼女は自覚していた。 繰り返すが、彼女は木石ではない。若き乙女であり、そして母親なのだ。 問いに対して反射的にそういう思考を、なのはは浮かべていた。そして、その一連の思考に対して。 彼女の左手に宿ったルーンが、今まで以上の反発をしたのだった。 (“強大な思考干渉を感知、遮断します!”) レイジングハートが警告を発するほどの。 ルイズが自分の胸に顔を埋めていてよかった。なのはは本気でそう思った。 それを聞いた瞬間の自分は、決して彼女には見せたくないような、『悪魔』の顔をしていただろうから。 この瞬間、彼女ははっきりと理解したのだ。 使い魔のルーンが、当の使い魔の意志を無視して、その身を主に縛り付けるための『枷』であることを。 そしてこの世界全体を覆う、あまりにも希薄でありながら、あまりにもたちの悪い、世界を覆い尽くす『悪意』を。 いまだルイズには話していなかったが、なのははその『悪意』が存在する証拠を入手していた。 それはレイジングハートが、始祖のオルゴールから読み取った『虚無の魔法』であった。 そこに収められていた無数の魔法。なのははその魔法のことごとくに見覚えがあった。 ミッドチルダ式魔法。そして、近代ベルカ式魔法。 虚無の魔法の原典は、一部を除いて殆どがミッドチルダ式の魔法を元にしていた。そしてその運用形式は、近代ベルカ式に酷似していた。 近代ベルカ式は、形式の異なるベルカ式の魔法を、ミッド式で再現できるようにしたシステムである。古代ベルカ式の術法をミッド式に載せているのではなく、術そのものを再構成したようなものだが、効果においては共通である。 そしてなのはは、この世界において『始祖の御技』である虚無の魔法に、この両者に似たものを見いだしていた。 虚無の魔法は、他の系統の魔法と明らかに違いすぎた。 良くも悪くも、虚無以外の系統魔法は、このハルケギニアという世界と密着して存在していた。ハルケギニア世界において、この世界の特質を生かすために生まれた、ハルケギニアのための魔法である。 ビダーシャルやシルフィードが少し使うのを見ただけであるが、先住魔法もハルケギニアと密着していることには変わりはない。 シルフィードから聞いた話では、本来先住魔法は特定の『場』と契約して使う魔法だそうだ。そうでないのは彼女の使う『変身』のように、先天的に使える幾つかの魔法だけだそうである。 つまり、こちらもハルケギニアという地に密着している。 だが、虚無の魔法はそれから明らかに浮いていた。 空間転移、魔力侵奪、幻覚形成、時間加速、次元跳躍……一部にはミッド式でも理論上でしかないものもあったが、大半はなのはにも覚えがあった。 そして何より、『共鳴』『外部魔力操作』でそのほとんどが成り立っている系統・先住魔法に対し、虚無の魔法は明らかにミッド式やベルカ式と同じ、『魔力による事象改変』の流れを汲んでいる。詠唱や発動方法などは他の魔法に倣っているが、根本のあり方が明らかに違う。 それに加えることさらに、虚無の魔法の殆どは、破壊……それも、明らかにこのハルケギニアという世界に喧嘩を売るかのような方向に特化していた。ある意味閉じた世界であるハルケギニアの地、その殻をぶち破るような魔法が大変に多いのだ。 ルイズが覚醒しながらも初めの魔法である『エクスプロージョン』以外の魔法を使えないのも、おそらくはそれが原因だとなのはは思っている。 外の世界を知り、ミッド式の魔法を見慣れたなのはには簡単に思いつけても、この地の文化にひたっているルイズには、最初の発想そのものが出てこないのだ。 おそらくそちらの目覚めには、『必要とされる力を望むこと』が必要であると、なのはは思っている。現にもう一人の『虚無の担い手』である教皇聖下は、祈祷書から『ほしかったもの』である、『移動手段』を習得した。 これはなのはには大変になじみの深い『祈願型』の魔法構築に大変よく似ている。魔導式を組み上げるのか、膨大なリストから検索するのかの違いでしかない。 これらから類推されるのは、虚無の魔法は、虚無の担い手とは。 このハルケギニアという世界を打ち壊す、反逆の力なのだ。 そう考えると、幾つかのことがすっきりとする。 始祖の秘宝に秘められた文言。世界の管理者を自称するビダーシャルの言葉。 虚無の力は、本来この世界にあるべきものではない。遙か過去、この世界に漂着したプレシアさんのように、外からもたらされたものなのだろう。いや、ひょっとしたら。 (虚無の魔法は、プレシアさんが作り上げたものかも知れない) そんな思いすら浮かぶ。 なのははこう推測していた。 十年前のあの日、フェイトちゃんの目の前で虚数空間に落ちたプレシアさんとアリシアちゃんの遺体を収めたポッド。 本来助かる可能性などないはずのその試みは、奇跡ともいえる『当たり』を引いた。 それがこの地……ハルケギニアへの漂着。 ここでプレシアさんは、おそらくロストロギア級の何か……おそらくは生命操作に関する技術を見いだしたのだろう。水の精霊が再現した彼女の姿は、自分の知る者より若々しく、健康なものに見えた。本来のプレシアさんは、見た目よりずっと年を取っており、健康も害していた。水の精霊が語るような、『冒険者』的な生き方など出来るはずがなかったのだ。 だとすれば彼女はそれを解消する手段をここで見出したに違いない。 だが、その技術を持ってしても、まだアリシアちゃんの蘇生にはとどかなかった。だから探したのだろう、自分の手に入れたものを上回る『奇跡』を。 存在することは確信していたに違いない。そして、それは成し遂げられた。 水の精霊が言うのだ。この事に間違いはないはずである。 だがビダーシャルは、プレシアさんがスターライトブレイカーを使って、自分たちの住む地を滅ぼしたと言っている。 これも嘘ではあるまい。おそらくは何らかの対立があったのだ。 一番ありそうなのが、プレシアさんという存在自体。異端の排除だ。 次いでアリシアちゃんの蘇生。これがエルフ達の守る『禁忌』のようなものに触れたという可能性もある。 その他の可能性もあるが、ビダーシャルを初めとするエルフが、『世界の管理者』を自称する以上、その対立理由は『世界に対する脅威』もしくは『ルール違反』であるのは疑う余地がない。 そしてあまりにもフェイトちゃんに……言い換えればアリシアちゃんにもそっくりな『始祖の肖像画』。 このハルケギニアで、デジタル写真を残せるのは外部から来たものとしか考えられない。 固定化の魔法があるから、経年劣化の問題はない。 そう考えると、あまりにも恐ろしい推論が成り立ってしまう。 始祖ブリミルとは、ブリミル教とは。 今ハルケギニアに広まっているような心のよりどころなどではなく、 この世界に反逆するために、この地の民を駆り立てる狂信的なカルト宗教だったのではないか。 そう考えると、虚無の力と血統が王の象徴となっているのは、あまりにも皮肉としか言いようがなかった。 (本当に世界はこんな筈じゃなかったことばっかりだね、クロノ君) 使い魔とは、本来この地に住む動物を召喚するもの。絶対の『友』を呼び出すものなのであろう。 そこには悪意と言うより無邪気な意図しか感じられない。だが少なくとも『虚無』は。 その術式によって呼び出す存在を『人間』にし、あまつさえその意志を縛るためのシステムが存在している。 この意志を縛るシステムそのものは、使い魔のルーン共通かも知れない。ひどい話であるが、相手が野生動物であるとすればぎりぎり納得できなくもない。 シルフィードのような『意志ある幻獣』を召喚する例は少なそうであるし、そういう場合でも彼らは予備知識として召喚と使い魔のことを知っており、納得した上でそれに応じる。 だが、ルイズの場合は、虚無の場合は。 応えたのは確かに自分だ。あのとき確かに、自分の意志で自分は召喚の『鏡』に触れた。 だがそこにはなんの説明も予備知識もなかった。召喚システムは、いかなる方法かはともかく、虚無の使い魔にふさわしいと思われる『存在』を選別し、なんの説明も無しに召喚しようとしていたのだ。 そこには幾多の誤解と悲劇があったことが簡単に予想される。そしてそういう想いを強制的に抑圧するルーン。 利用したのか、組み込んだのかは判らない。だがそこには明確な一つの意志がある。 使い魔を『駒』として扱う意志だ。使用者でなく、制作者が込めた意図。 持てる全てを使って、世界に、世界の大きな『システム』に反逆する意志。 そこにどんな理由があったのかは判らない。 始祖ブリミルは、一体、何を思ってこの世界を壊そうとしたのか。それはさすがになのはにも判らない。 だがこんなことは、とうてい他人にいえたものではなかった。特に、純粋に世界を肯定しているルイズには。 世界を肯定するために自分を否定してしまうような面がルイズにはある。そんな彼女にこの事を告げるのは早すぎる。いや、出来れば一生言わない方がいい。 それにそもそも、肝心のことがなのはにもまだ判らないのだ。 この世界と、それに反逆した始祖。 そのどちらが『悪』だったのか。 世界か、始祖か、それとも両方ともか。 あるいはどちらも自分が正しいと思っていたのか……現実のように。 それが判るまでは、なのはにはどちらに対しても味方することは出来なかった。 そして想う。この推論をルイズに……ご主人様に話すことがあるとすれば、それは。 世界と始祖、その双方の意図を知った時であると。 そしてルイズの下した結論に、自分は従おうと。 そして複雑な思いと共にルイズ達を載せた馬車は、ルイズの故郷である、ラ・ヴァリエール公爵領に到着した。 なのはが、ルイズが悩む中、混乱する想いを持つものがこんなところにもいた。 次元航行艦・アースラ。 その作戦会議室で、クロノを初めとする首脳陣が一様に頭を抱えていた。 映っているのは高次元探査による、目的地と思われる世界の衛星軌道映像である。 サーチャーを先行させることも出来なかったため(ファーストコンタクトになってしまうので)、長時間かかって集めた次元波動……時空震のような、次元間を越えて伝わる振動波を解析・合成して、こうして目的地と思われる世界の姿を映像化することに成功した。 そこに移っていたのは、ごく標準的な惑星であった。だが、あまりにも異常な点が二点存在した。 一つは、その大陸配置であった。 あまりにもとある既知世界に酷似していたのである。 具体的に言えば、第97管理外世界、現地呼称『地球』に。 偶然とは思えなかった。同位世界・並行次元世界においても、こうまで地図が一致する例はない。 それは『誤差』……初期条件は共通であっても、そこに至るまでの間による時間が、可能性の分岐……変化を生み、それが世界の差になると、ミッドチルダの次元世界学では説明されている。 だが眼前の世界は、どう見てもコピーでもされたかのように、第97管理外世界そのものの姿をしていた。ちなみに座標が明らかに違うので、目の前の世界が地球である可能性はない。 そしてそれに加えてもう一つ。 『なあ……なんであんなものがあるんだ?』 初めてこの映像を見た時、クロノは思わずそうつぶやいていた。 報告によれば、『それ』は、現実に存在するものではないという。 『彼の地に実在するのは、今見ている映像ではなく、無数のモニュメント……石で作られた、一見意味のない彫像や都市遺跡のように見えるでしょう。サーチャーを送って、光学手段によって観測したのであれば、我々にもあれは見えないはずです』 『高位次元から、次元波動を使って観測した時にのみ、見える映像、か……』 『はい。次元探査波の反響に対して成立する、ホログラフのようなものです』 その時の報告を思い出しながら、クロノは映像を見る。 ちょうどユーラシア大陸を中心とした地球の映像。こちらで言うシベリア中央部辺りに、『それ』は存在していた。 緑の森を背景に浮かび上がる白い文字。それは現実に存在するものではなく、次元探査波動を解析し映像化した時に、ノイズの集合体として初めて浮かぶものらしい。 言語は神代ベルカ語。これはミッドチルダ語を英語、ベルカ語をドイツ語にたとえるとすれば、ちょうどラテン語に当たるような言葉である。この二つに限らず、次元界で使われている言葉の源流とされるもので、現在では殆ど残っていない幻の言語である。 現存しているのは、聖王教会において存在する聖書の『原典』位である。 「でもなんであんな言葉が、こんなロストロギア級の技術を使って書かれているんだ?」 「判るわけありませんよ……まるで観光地の看板だ」 次元波動に対するホログラフ干渉紋様を、巨石という物理的実体を使って形成するなど、とんでもない技術の無駄遣いである。 そうまでして描かれたもの。画面に映った文字。 その内容を私たちの言葉で言うと、次のようなものになる。 ようこそ、“ハルケギニア(幻想郷)”へ! 前ページ次ページゼロと魔砲使い